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中国「固定資産税」一部都市で試行へ 投機抑制狙う

【北京=川手伊織】中国は日本の固定資産税にあたる不動産税を一部の都市で試験導入する方針だ。金融緩和でマネーが流れ込んだマンション市場の価格高騰を抑える。財政難にあえぐ地方政府の収入を増やす狙いもある。懸念は複数の物件を持つ「持てる者」の反発の根強さで、全国展開に向けた課題も多い。

中国財政省などが5月、地方政府の担当者や専門家を集めた会議で試験導入の方針を示した。11年に上海と重慶が建物のみの所有税を導入したが、今回は土地も対象に含めた本格的な固定資産税だ。

特区の経験が豊富な広東省深圳や自由貿易港として改革を進める海南省が候補地に挙がる。上海などの大都市や財政難に苦しむ地方都市も順次対象に含める案もある。

新税を導入する最大の目的は、マンション価格の高騰を抑える狙いだ。中国では新型コロナウイルス対応の金融緩和であふれたマネーが不動産市場に流れ込んだ。取引価格が自由で市場の需給を反映しやすい中古物件をみると、北京、上海、深圳、広州の四大都市の前年同月比伸び率は平均で1割超まで高まった。

金融当局は規制を強めている。1月から住宅ローンの総量規制を導入した。個人事業主の運転資金向けローンを住宅購入資金に転用していないかも厳しく監視する。価格が高騰しやすい「学区房」と呼ぶ名門校付近のマンションの取引も制限し始めた。

これらの金融規制に合わせて固定資産税を設けて土地の収益率を下げて、投機を抑える。空き家の売却で中古マンション市場の供給が増えれば、価格が安定し、若い世代などが購入しやすくなるとの期待もある。西南財経大学の分析では、中国の空き家率は20%超と、日本の14%より大きい。

地方政府の収入増も新税の目的だ。地方財政は景気対策や新型コロナ対応の減税などで悪化してきた。20年の赤字は9800億元(約17兆円)と、10年間で5倍近くに膨らんだ。財政省によると、3000近くある県(省や市より小さい地方行政区)のうち約2割が公務員給与の未払いリスクなど深刻な財政難に直面している。

地方財政は不動産の開発や売買への依存を強めている。地方政府が20年に国有地の使用権を不動産会社に売って得た収入は、中央と地方を合わせた税収総額の5割を超えた。不動産関連の地方5税も開発や売買にかかわる税目が多い。19年までの10年間で4倍に増え、地方税収の25%を占める規模に拡大した。

不動産関連の財源がなければ、地方財政が維持しにくくなっている。人口流出が加速する中小都市では今後、建てすぎたマンション在庫を処理しきれない恐れもある。土地も含めた地方所有税をつくり、財源不足を緩和させたい考えだ。

3月にまとめた25年までの第14次5カ年計画に「不動産税の立法化を推進する」と明記した。方針そのものは13年の第18期中央委員会第3回全体会議(3中全会)で示されていた。16~20年の第13次5カ年計画の表現ぶりは、今の5カ年計画と全く同じだ。8年越しで議論してきたが、事実上の先送りが続いていた。

背景について、中国の不動産企業で商業施設などの開発に携わる担当者は「住宅への所有税の適用は、複数物件を持つ共産党幹部や富裕層の反発が強い」と解説する。

中国人民銀行(中央銀行)が都市部で世帯ごとの所有数を調べたところ、住宅所有世帯のうち「2軒」が31.0%、「3軒以上」が10.5%だった。大都市は人口流入が続いており、複数物件を持つ家主の不動産収入は少なくない。固定資産税は既得権が複雑にからむ。

土地の国有制も税導入に向けた障害だ。建前上は国が所有するのに企業や個人が所有税を払うという矛盾のほか、土地評価額の算定が難しいという面もある。

企業や個人が買う土地の使用権は1990年に、用途別の期限を決めた。商業施設は最大40年、住宅地は最大70年だ。2021年1月施行の民法典は期限を迎えても使用権は自動延長できると明記。問題は延長時に使用権の購入費用がかかるかどうかだ。

民法典は「法律や行政規定に基づき手続きする」と曖昧な表現だ。このコストも土地の評価額を左右する要因だ。北京師範大学金融研究中心の鍾偉主任は中国メディアに「使用権の取り扱いが不動産税の導入に立ち塞がる大きな壁だ」と語る。

中国の地方都市は不動産開発をテコに内需をつくり出し、財政も依存してきた。目前に迫る人口減少など経済社会構造の変化をにらみ、財政当局は25年までに不動産税を全国導入したい考えだ。ただ社会主義体制と相いれない部分があるうえ、「持てる者」の反発は根強く、全体像は見えない。

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