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分散型金融、法規制で安定を(The Economist)

The Economist

懐疑派にとって、批判材料は尽きない。最初の暗号資産(仮想通貨)ビットコインは初期の段階で違法ドラッグの支払いに使われた。最近のハッカーは身代金を仮想通貨で支払うよう要求する。今年、別の仮想通貨イーサのコードにバグを見つけたハッカー集団は数億ドルを盗んだ。世界中の「信者」が一獲千金を狙って取引する仮想通貨の時価総額は2兆2000億ドル(約240兆円)にのぼる。

15年に誕生したブロックチェーンネットワーク「イーサリアム」の利用が急速に広がっている。分散型金融の仕組みが従来の金融システムを大きく変える可能性がある=ロイター

なかには狂信的な者もいる。エルサルバドルがビットコインを法定通貨にする取り組みに関わった起業家は、6月の発表の際に壇上で泣きながら、この国を救う決断だと主張した。

犯罪者、愚者、信仰の押しつけとなれば不快感は禁じ得ない。だが、分散型金融(DeFi、ディーファイ)と呼ばれる金融サービスの台頭は熟慮に値する。期待と危険を伴いつつも、金融システムの仕組みを再構築する力を秘めている。分散型金融のイノベーション(技術革新)の急速な拡大には、ウェブの発明初期の熱気に通じるものがある。人の生活のオンライン化がかつてなく進む中で、この暗号革命はデジタル経済の構造を抜本的に変える可能性すらある。

DeFiは金融に創造的破壊をもたらしている3つのテックトレンドの一つだ。巨大テック企業に代表される「プラットフォーマー」は決済分野や銀行業界に割って入り、各国は中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC)に着手している。DeFiは権限を集中させるのではなく、分散する新たな道を切り開く。

その仕組みを理解するにはまず、ブロックチェーンを知る必要がある。コンピューターの巨大なネットワークが、改ざんできない記録を保持して共有する仕組みだ。中央機関はなく、そのデータは自動的に更新される。

イーサリアム、透明性と低コストで急速に普及

2009年に登場した初の大規模なブロックチェーンであるビットコインは話題に事欠かない。だが、今最も注目すべきは15年に誕生したブロックチェーンネットワーク「イーサリアム」だ。一気に普及が進む段階に達しつつある。分散型金融のアプリケーションの大半がイーサリアム上に構築されており、イーサリアムの開発者は金融分野を大きな収益機会をもたらすターゲットとみている。

旧来の銀行は清算機関、コンプライアンス(法令順守)、資本規制、訴訟など、見知らぬ人の間で信用を維持するために巨大なインフラを必要とする。コストが高く、それが内部の者に握られている。クレジットカードの手数料や、大金融機関の幹部が所有するクルーザーを思い浮かべればわかるだろう。それに比べて、ブロックチェーン上の取引は少なくとも理論上は信頼性や透明性が高く、低コストで迅速だ。

使われる専門用語には近寄りがたい感はある。手数料は「ガス」、その通貨は「イーサ」、デジタル資産の権利証書は「非代替性トークン(NFT)」などと呼ばれる。だが、分散型金融の世界での基本的な活動は身近なことだ。例えば、交換所での取引、融資の実行、契約を自動的に実行する「スマートコントラクト」による預金の受け入れなどだ。

活動の目印となる担保として使われているデジタル商品の価値は18年初めはゼロに等しかったが、今では900億ドルに達する。21年4~6月期にイーサリアムが承認した取引の額は2兆5000億ドルに上った。これは米カード決済大手ビザの決済処理額に匹敵し、米ナスダック市場の取引高の6分の1にあたる。

分散型で摩擦の少ない金融システムを構築するという夢はまだ始まったばかりだ。DeFiはさらに挑戦的な分野に広がっている。仮想通貨のウォレット(電子財布)「メタマスク」は、1000万人にのぼる利用者のデジタルIDとして機能している。分散型の仮想空間「メタバース」に入り、メタマスクの利用者が営む店を利用するためには、自分の分身であるアバターに電子財布をリンクさせる。

消費のオンラインシフトが進むなかで、こうしたデジタル世界の覇権争いは激しさを増すだろう。巨大テックがこの世界に重税を課す可能性もある。アップストアで米アップルが取り立てる手数料や米フェイスブックがアバターの個人情報を売ったりする状況を想像してみてほしい。分散型金融なら利用者同士が互いに運営し合うかたちで必要な機能を提供でき、より優れているといえるかもしれない。決済サービスや財産権を提供することもできる。

仮想通貨マニアはここに理想郷を見いだすだろう。だが分散型金融が米銀大手JPモルガン・チェースや米決済大手ペイパルのような信頼を得る道のりは遠い。問題のなかには単純なものもある。ブロックチェーンのプラットフォームは機能の拡張が難しく、コンピューターの使用で大量の電力を浪費しているとしばしば批判される。だが、イーサリアムには自己改善の仕組みがある。需要が高まれば承認作業の手数料が上がり、開発者に利用を抑えるよう促す。イーサリアムは近く改善版がリリースされる予定だが、いずれは他のより優れたブロックチェーンが取って代わる可能性もある。

仮想経済にも現実世界とのつながりが不可欠

分散型金融については、独自の基準を持つ仮想経済が現実の世界とどう関わっていくかが問題になる。懸念の一つは価値を支える外部の後ろ盾がない点だ。仮想通貨は、人々がその有用性に共通の期待を抱くことに依拠しているという点では、米ドルと変わりはない。

だが、従来の通貨は権力を独占する国家と、最後の貸し手である中央銀行の支えがある。分散型にはこうした後ろ盾がないため、パニックに弱い。仮想世界の外での契約の実行にも懸念が残る。ブロックチェーンの契約で家の所有権があるといっても、立ち退きを執行するには警察が必要になる。

DeFiのガバナンスと説明責任は発展途上だ。コードを書くうえでのミスが避けられないため、取り消しがきかず人の手で上書きできない大型取引の連鎖には危険が伴う。イーサリアムと金融システムの境界のグレーゾーンでは統治が行き届かず、マネーロンダリング(資金洗浄)が横行している。分散型とうたいつつも、大きな影響力を握るプログラマーやアプリ所有者もいる。悪意を持つ者がブロックチェーンを運営するコンピューターの大半を乗っ取る事態が起きる危険もある。

デジタル自由主義者はDeFiの自治体制を維持することを望むだろう。不完全でも、純粋だからだ。だが分散型金融が成功するためには、従来の金融システムや法制度との統合が不可欠だ。仮想通貨に詳しい米証券取引委員会(SEC)のゲンスラー委員長が指摘したように、DeFiのアプリケーションの多くは、分散型の組織に運営され、ルールを決められている。こうした組織を法規制の対象にしなくてはならない。各国の中銀が参加する国際決済銀行(BIS)は、仕組みに安定性を持たせるために、DeFiアプリで国が発行するデジタル通貨を使えるようにすることも提案している。

金融は大テックプラットフォーム、大きな政府、そして分散型金融の3者の革新性と欠陥を伴ったビジョンが競いつつ融合する新たな時代に入った。それぞれに技術体系があり、経済運営のあり方について独自のビジョンを具現化している。1990年代のインターネット勃興期と同様に、この変化の行方は誰にもわからない。だが、この動きは通貨の機能を変える可能性があると同時に、デジタル世界全体を変える力も秘めている。

(c) 2021 The Economist Newspaper Limited. September 18, 2021 All rights reserved.

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