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香港行政長官が施政方針演説 人材流出に危機感

(更新)

【香港=木原雄士】香港の李家超(ジョン・リー)行政長官は19日、施政方針演説にあたる施政報告で高度人材を呼び込むための政策パッケージを発表した。高い年収や高学歴の人向けの新たなビザを創設する。加速する人材流出に歯止めをかける狙いだ。新型コロナウイルス規制は段階的に緩和するとし、完全撤廃は見送った。

李氏は初の警察出身の行政長官で、7月に就任した。任期5年の初めての演説で「この2年間で労働力人口が14万人減った。企業や人材をめぐる競争に先手を打ち、より積極的に取り組む必要がある」と危機感を示した。

新たに設ける期間2年のビザは、過去1年の年収が250万香港ドル(約4800万円)以上か、世界トップ100の大学を卒業し一定の実務経験がある人が対象。実務経験の要件を満たさないトップ大卒者も年1万人を上限にビザを出し、香港での就職を促す。

特定の業種や年収200万香港ドル以上の欠員補充では、企業が外国人を採用しやすくする。香港永住者以外の人が住宅を購入した場合にかかる30%の印紙税の一部を一定期間後に還付する仕組みも導入する。香港は住宅コストが高く、外国人が定着しにくい一因になっていた。

外国企業の誘致では、公的ファンドに300億香港ドルの投資枠を設け、香港で事業立ち上げをめざす企業に投資する。

民主化デモの取り締まりで名を上げた李氏が、高度人材や外国企業の誘致に力を入れるのは危機感の裏返しでもある。

2020年の香港国家安全維持法(国安法)施行や中国式の厳しい「ゼロコロナ」政策で、金融やITの専門人材が香港を離れる動きが目立つ。外国人向け就労ビザの承認件数は20年以降、大きく減った。政治的な締め付けをきらって香港人が欧米に移住する動きもあり、人材不足に拍車がかかっている。

シンガポールも高度人材に5年間の滞在を認めるビザ制度の導入を決めており、アジアの有力都市で人材獲得の競争が激しくなっている。

ただ、香港の政策には効果を疑問視する声もある。人材コンサルタント会社、環球管理諮詢の李漢祥氏は「新卒者を対象としたビザで管理職レベルの人材流出を防ぐことはできない」と指摘。住宅購入にかかる税還付も「住宅を借りる際の優遇がなく、魅力的ではない」と述べた。

コロナ規制をめぐっては、入境時の強制隔離を9月下旬に撤廃し、「ゼロコロナ」の中国本土とは異なる扱いを明確にした。ただ、頻繁な検査や飲食店への入店規制などが残り、ビジネスや観光で香港を訪れるのはハードルが高い。

中国本土との往来を正常化するには「ゼロコロナ」の建前を維持する必要があり、残る規制は感染状況をにらみながら調整する。李長官は「香港にとって中国本土と海外とのつながりを取り戻すのは同じくらい重要で、並行して取り組んでいく」と述べた。

政治面では「一国二制度の最優先事項は国家主権や国家安全を守ることだ」と語り、習近平(シー・ジンピン)指導部の方針に沿って、異論を抑え込む路線を強調した。

国安法を補完する国家安全条例について「制定に向けた準備作業を進める」と説明。民主派の資金源とにらむクラウドファンディングの規制や、サイバーセキュリティーの強化、「偽情報」に対応するための政策などを列挙した。中国に批判的な報道を「偽情報」として取り締まる懸念が浮上している。

演説では中国国民としての意識を醸成するための国家教育を重視し、中国文化を学ぶ幼稚園への支援策にも言及した。

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