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中国の教育熱、次は「体育」 学習塾規制から1年

2022年1~3月の中国の実質国内総生産(GDP)は前年同期比4.8%増だった。新型コロナウイルスの徹底した「ゼロコロナ」規制で、3月の消費は前年同月比マイナスに転じた。先行き不安が財布のひもを固くするが、子育て世帯では、身体能力を高めたり球技を学んだりする教室への支出が増えている。政府が昨年規制を強めた塾業界で何が起きているのか。

「今冬のスキー教室に参加した生徒・児童は1回当たり700人で、同80人だった2年前から9倍近くに増えた」。北京市で運動関係の教室を経営する張さんは驚きを隠さない。

2~3月の北京冬季五輪・パラリンピックに触発された子も多いが、張さんが最大の理由と指摘したのが、政府の学習塾規制だ。「英語や数学を教える塾が、週末や長期休暇に開講できなくなり、スポーツを習わせる親が増えた」

中国共産党と国務院(政府)は21年7月、小中学生向け塾への規制を強めた。高騰する塾代を統制し、家計の教育費負担を和らげることで出生数の減少に歯止めをかける狙いだ。英語や数学など日本の主要5教科に相当する科目が対象となった。

習い事需要の代替先として世間の関心を集めたのが、運動関連の教室だ。スキーや水泳、バスケットボール、サッカーなど競技だけではない。ショッピングモールなどには、縄跳びや走り方を教える教室、カンフーや柔道の道場もある。

北京市に住む魏さんは8歳の一人息子を2年前からスケートボードの教室に通わせる。1コマ1時間の料金は1000元(約2万円)と高額だ。それでも「痩せ気味でちょっと心配だったが、興味を持ってやり続けて体力も付いてきた」と満足する。

教育分野の調査会社、上海寰道教育科技が北京や上海、省都クラスの大都市で小中学生を育てる世帯を調べたところ、6割超の家庭が体育関連の習い事に年1万~5万元使うと回答した。「数年で100万元払う」と答えた親もいた。

なぜスポーツ教室などに関心が集まるのか。背景には、「中考」と呼ぶ高校受験で体育が国語、数学、英語と並ぶ必須科目になっているという事情がある。

中国当局は20年10月、高校受験で体育の比重を高める方針を示した。例えば、北京市は21年末、現在30点満点の体育の点数を7~8年かけて70点に引き上げる。小中学生時代の基礎体力検査の結果も含む。

広東省広州市は高校受験の縄跳びのテストで満点を取る基準を厳しくした。1分間に176回だったのを、21年は182回に増やした。高校受験における体育の比重と難易度が高まったことが親の教育意欲に火を付け、運動関連の習い事が関心を集めるようになった。

政府の規制強化で大量解雇や倒産が相次いだ学習塾業界も、新たな商機に飛びつく。大手の新東方教育科技は昨夏、山東省青島市と天津市で高校受験の体育対策の講座を開設した。

教育研究機関の多鯨教育研究院は、運動・スポーツ教育の市場規模が23年に1300億元に達するとはじく。学習塾規制が始まる前の20年から1.8倍に拡大するとみる。

長年の産児制限で、中国は一人っ子世帯が多く、祖父母を含めて教育熱が高い。塾での英語や数学を学ぶ塾代は政府の価格統制で下がったが、規制の対象外である体育などは今後、需要増に伴って料金が跳ね上がる可能性もある。

北京市の教育業界関係者は「スポーツや音楽の教室も価格統制の対象になるとの噂はある」と語る。そのうえで規制はイタチごっこにすぎないと指摘する。「子の将来を案じる親が必要経費とみなせば、規制の網が広がっても家庭教師など新たな受け皿が生まれるだけだ」(北京市で、川手伊織)

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