元徴用工解決策、韓国大統領が履行を明言

韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は16日の岸田文雄首相との会談で、元徴用工問題の解決策を着実に履行すると明言した。首相は歴代内閣の歴史認識を継承すると述べた。日韓は関係正常化へ歩み始めたものの、韓国内には「譲りすぎだ」との声がくすぶる。

岸田首相、過去の歴史認識継承
尹氏は16日の共同記者会見で、元徴用工を巡る2018年の韓国最高裁判決は韓国政府の立場とは異なると語った。
1965年の日韓国交正常化時の協定に立脚しているとし、「これを放置せず韓日関係を正常化させる」と強調した。
文在寅(ムン・ジェイン)前政権は司法判断を尊重し、この問題の解決に動かなかった。「日韓関係を健全な関係に戻すためのものだ」。首相は文氏とは異なる尹氏の対応と決断を評価した。
韓国側が求めていた植民地支配への反省とおわびの言及に関し、首相は歴代内閣の立場を継承すると話した。「歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいる」と説明した。
「反省」「おわび」という直接的な言葉はそれでも控えた。自民党内に慎重論があるためで首相の配慮がにじむ。
元徴用工問題の解決策を巡り日韓間で論点になった「求償権」でも、首相は尹氏からある言質を取った。求償権とは財団が日本企業の賠償を肩代わりした後、日本企業に賠償金の返還を求める権利をさす。
「行使は想定していない」。尹氏がこう明言したことで日本企業による原告への賠償に発展する可能性は低くなった。
解決策、韓国では半数反対
尹氏の外交成果を韓国内で評価する声は多くない。韓国の公共放送KBSと韓国リサーチの7〜8日の緊急調査によると「間違った決定だ」と答えた人は53.1%だった。「良い決定だ」の39.8%を上回る。

韓国は24年春に総選挙(国会議員選)を控える。与党の勝敗は27年まで任期が残る尹氏の政権基盤を左右する。
日韓関係で支持率を極端に落とせば尹政権の求心力が落ち、懸案の処理を完結させる力を失う状況も起こりえる。
元徴用工問題の解決策の仕組みは、韓国政府傘下の財団が日本企業に代わって原告に判決金を支払うというものだ。
韓国の鉄鋼大手ポスコは15日、原資として財団に40億ウォン(4.1億円)を拠出すると発表した。財団は原告からの申請を受け付ける準備が整ったとみる。
一連の手続きを巡っては再び法廷闘争に陥るリスクが残る。例えば解決策に反対する原告が相当数いる。
確定判決を受けた原告15人のうち生存する3人は既に財団からの判決金の受け取りを拒否すると表明した。
韓国外務省はどうしても受け取らない場合、判決金を裁判所に供託すれば賠償を履行したことになると説明する。一方、原告代理人の弁護士は原告の権利を勝手に消すことはできないとして主張が対立する。
司法での判断は予測しにくい。そのため外務省はできる限り原告を説得し、財団から受け取る人を増やす絵を描く。尹政権が世論の批判を浴びて求心力を失えば原告の説得は一層難しくなる。
「会談で得られた国益は何か」。尹氏は16日の記者会見でこんな質問を受け「韓国と日本の国益はゼロサムではなく、ウィンウィンにできる」と答えた。
(ソウル=甲原潤之介)