シンガポール最大野党窮地、国会が捜査求める動議可決

【シンガポール=中野貴司】シンガポール国会は15日、最大野党、労働者党(WP)のプリタム・シン書記長の「虚偽」証言を巡って、さらなる捜査のために検察に付託するのが適当だとする動議を可決した。WPは2020年の前回総選挙で議席数を増やして躍進したが、一転して窮地に追い込まれた。
国会の特別委員会は10日、同委員会でのシン氏の証言が虚偽だと確信しているとする報告をまとめ、シン氏への捜査を検察に付託すべきだと国会に勧告していた。国会は15日、勧告を巡って討論し、与党・人民行動党(PAP)書記長のリー・シェンロン首相らは「偽証は深刻な刑事犯罪だ」などとして勧告の内容は妥当だと主張。シン氏は「勧告は偏った内容だ」と反論したが、PAPが議席の圧倒的多数を占める国会で動議は可決された。
今後、検察がシン氏の証言内容を捜査し、虚偽だと判断すれば起訴する見通しだ。仮に起訴されれば、虚偽かどうかの判断は司法に委ねられることになる。先行きは予断を許さないものの、これまでの特別委員会の報告内容によってWPの信任は既に揺らいでおり、支持者離れが進む可能性がある。
今回の事の発端はWPの若手女性議員が21年8月に、国会で虚偽の主張をしたことだった。この議員は当初、主張は事実と強弁していたが、同年11月には虚偽であることを認め、議員辞職した。この経緯を特別委員会が調べる過程で、WP党首のシン氏が虚偽と知りながら、長い間発言の訂正を指示しなかったことが判明し、シン氏の責任問題に焦点が移っていた。
10日の特別委員会の報告は女性議員が3カ月間、虚偽を認めなかった背景に、シン氏の指導があったと指摘。この問題に関する特別委員会でのシン氏の証言も虚偽だったとして、強い捜査権限を持つ検察に付託するのが適当だと結論づけた。国会で一部の証言を拒否した別のWP幹部の捜査についても、検察に付託すべきだとした。
今回の問題の発端がWP議員の虚偽証言で、墓穴を掘った形だけに、今のところ特別委員会の報告や動議の可決が与党側の政治的な動機に基づくという見方は主流になっていない。ただ、党首が起訴される事態になれば、WPにとっては大きな打撃となる。逆に、1965年の独立以来、政権を担い続けるPAPは、じりじりと下がっていた支持率を回復する思わぬ好機となる。
WPは国会で選挙区選出の議員がいる唯一の野党で、20年7月の総選挙では過去最多の10議席を獲得した。18年に書記長に就任したシン氏も野党のリーダーとしての評価を高めていたが、今回のスキャンダルで党勢の立て直しが急務となる。