WHO調査チーム、中国・武漢入り 2人は入国できず
【大連=渡辺伸、ウィーン=細川倫太郎】世界保健機関(WHO)の調査団は14日、新型コロナウイルスが中国で最初に確認された湖北省武漢市に入った。国際調査団による同市での本格的な調査は初めて。ウイルスの発生源を探るのが狙いだが、どこまで解明できるかは未知数だ。

調査団は日本の前田健・国立感染症研究所獣医科学部長を含む、欧米やアジアの専門家10人程度で構成している。シンガポールから武漢市に飛行機で到着した。ホテルで2週間の隔離措置を受ける。その間は中国側の専門家らとビデオ会議で情報交換する。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは調査団のうち2人が新型コロナの抗体検査で陽性だったとの理由で飛行機に搭乗できず、中国に入国できなかったと報じた。WHOは日本経済新聞の取材に「調査団のうち2人は検査のためシンガポールにいる」(広報)と2人が中国に入国できなかったことを認めた。WHOのツイッターによると、「調査団はPCR検査では陰性だったが、2人がIgMと呼ばれる抗体で陽性だった」という。
一方、中国衛生当局は14日、13日に河北省で新型コロナの患者1人が死亡したと発表した。同当局の発表資料によると、中国本土で新型コロナによる新たな死者が確認されたのは2020年4月14日以来で、約9カ月ぶり。本土全体の死者は4635人になった。
ロイター通信によると、WHOの調査団は隔離期間終了後、武漢で最初に集団感染が発覚した「華南海鮮市場」の現地調査や、病院や研究所関係者への聞き取り調査を2週間かけて行う予定だ。
WHOが20年2月の流行初期に中国へ派遣した国際的な調査団は武漢を訪れたが、海鮮市場や研究所は調査できなかった。WHOは同年7月にも予備的な調査に向けて2人を中国に派遣したが、大規模な調査はできていなかった。
20年末には21年の1月第1週に派遣する計画がまとまったが、中国政府による入国許可が遅れた。このため、テドロス事務局長は1月5日、「大いに失望した」と批判。中国政府は11日になってようやく受け入れを発表した。
派遣に時間を要したのは、WHO側の配慮もあったもようだ。WHOは本格的な調査団の受け入れを求めてきたが、強硬姿勢で交渉に臨めば、中国の協力を得られなくなるリスクがある。
人口や経済規模に応じてWHOに支払う義務的な分担金では、中国は米国に次いで多い。トランプ米政権が20年4月にWHOへ資金拠出の停止を表明した後には、すかさず3000万ドル(約31億円)の追加寄付も発表した。
02~03年に世界で重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した際に中国が情報を隠し、WHOは苦慮した経験がある。動物からヒトに感染した経路など、新型コロナはいまだ多くの謎に包まれている。
中国の協力を得られなければ、新型コロナの収束だけでなく、将来の別の感染症の発生阻止も遠のく。米紙ニューヨーク・タイムズは「内部文書などから中国の協力を得ようとWHOがいかに苦労してきたかが分かる」と伝えた。
中国には世界的な流行の責任追及を避けたい政治的な意図がうかがえる。「中国で最初に感染が見つかったからといって、中国が発生源とは限らない」。中国外務省は記者会見でこう説明してきた。
中国疾病予防コントロールセンターの専門家も中国メディアの取材に「武漢の(大規模)感染は海鮮市場で始まったが、輸入水産品が引き起こした可能性がある」と強調している。

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