韓国次期大統領、朴槿恵氏と会談 保守層狙い和解演出

【ソウル=甲原潤之介】韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)次期大統領は12日、朴槿恵(パク・クネ)前大統領と会談した。検事出身の尹氏は、朴氏を大統領時代の贈収賄事件で捜査した経緯がある。5月の政権発足を前に和解を演出し、尹氏の支持基盤である保守層の一部からいまでも厚い支持を受けている朴氏の協力を取り付ける狙いだ。
尹氏はこの日、韓国南東部の大邱(テグ)市内にある朴氏の自宅を訪ねた。50分程度の会談の後、記者団に「過去の件があるので、残念な思い、心の中の申し訳ない思いをお話しした。今の生活に不便がないかについても話した」と明らかにした。
尹氏側や朴氏の弁護士の説明によると、尹氏は朴氏の大統領時代の政策を継承し、朴氏の名誉を回復できるように努めると言及した。尹氏は大統領就任式に朴氏を招待した。朴氏は、健康状態が許せば出席できるように努力したいと応じた。
両氏は保守陣営の新旧大統領という点で共通するものの、特別な因縁がある。
朴氏は大統領任期中の2016年、民間人の友人を国政に関与させたとして国会で弾劾訴追され、失職した。17年には財閥から巨額の賄賂を受け取った疑いなどで逮捕された。この時、検察の特別チームのトップとして捜査を指揮したのが尹氏だった。
朴氏はその後、収賄などの罪で服役した。21年12月に特別赦免(日本の恩赦に相当)を受け、自宅には3月に入ったばかりだった。朴氏にとって、尹氏は自身の政治生命を終わらせるきっかけをつくった一人といえる。

一方、尹氏は事件の後、朴政権を引き継いだ革新の文在寅(ムン・ジェイン)大統領によって検察総長に抜てきされた。文氏が検察改革に着手すると尹氏は抵抗し、文政権と対立した。この姿が野党支持層の注目を集め、保守陣営の大統領候補の一人に数えられるようになった。
事件を機に対照的な道を歩むことになった両氏が今になって歩み寄った背景には双方のそれぞれの思惑がある。
尹氏にとって現下の最大の課題は足元の政権基盤固めだ。尹陣営には朴氏の前任の李明博(イ・ミョンバク)元大統領に近い人物が多い。尹氏の最側近で次期与党「国民の力」の院内代表に選ばれた権性東(クォン・ソンドン)議員も「李元大統領系」だといわれる。
保守層には、これとは別に、朴氏を熱心に支援するグループがある。朴氏は父の朴正熙(パク・チョンヒ)元大統領の時代からの支援者を引き継ぎ、失職後も根強い支持を受けている。尹氏にとって、新政権の支持率を高く維持するうえで無視できない。
朴氏からみれば、尹氏との接近は復権への布石にできる。朴氏は6月に予定される大邱市長選に向け自身の側近の出馬を支援するなど、すでに政治活動を再開した。尹氏に協力する姿勢を見せることで、保守陣営における影響力の回復を目指しているという見方もある。