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香港、今なお残る英国文化と強まる中国色

グローバルウオッチ

7月1日に中国への返還から25年を迎える香港には、英植民地時代の面影が随所に残っている。「キングス・ロード」や「プリンス・エドワード」といった通りや駅の名前から、ホテルのアフタヌーンティーまで英国文化が深く根を下ろす。一方、政治や経済で中国の影響力が強まるなかで、消えゆく慣習もある。

返還25年を記念して香港政府がつくったテーマソング「前」。紹介動画の冒頭に登場するのが中国国旗などを持って行進する香港警察だ。膝を曲げずに脚を上げる独特のスタイルは「ガチョウ足行進」と呼ばれ、中国人民解放軍が採用する。

英国様式の建造物、中国式の行進・敬礼

英植民地時代の「皇家(ロイヤル)香港警察」を引き継ぐ香港警察は長年、英国流の行進スタイルを採用していたが、2021年に初めて中国式を披露した。

香港紙・明報によると、7月1日から完全に中国式の行進や敬礼スタイルに切り替える。英国スタイルの一掃は警察以外でも進み、受刑者と刑務官の間でも「イエス・サー」など英語のやり取りをやめる。

返還25年たっても消えない英国文化もある。香港島の金融街・中環(セントラル)にある香港終審法院(最高裁)の建物はバッキンガム宮殿の整備にも携わった英国人建築家らによって設計され、1912年に完成した。終審法院からほど近いセント・ジョンズ教会も13世紀のゴシック様式を採用している。

香港で文化ツアーなどを手掛ける活現香港の陳智遠・共同創業者は「植民地時代の古い建物には保存する価値がある」と話す。古い建造物は「まちを形作る社会的資産」だとし、「香港の物語の一部で、他に取って代わられることはない」という。

ケーキやサンドイッチ、スコーンなどの軽食を紅茶と一緒に楽しむアフタヌーンティーも香港に定着した英国発祥文化の一つだ。香港で最も長い伝統を持つと言われる高級ホテル「ザ・ペニンシュラ」のアフタヌーンティーで、名物のスコーンのレシピは半世紀以上変わっていないという。

香港中を走る2階建てバスや、路面電車「トラム」も英植民地時代の面影がある。日本では1階にあたる地上階をグランドフロアと呼ぶのも英国と同じだ。

植民地時代も香港の歴史的遺産

経済都市や金融センターの地位にとって重要なのは、公用語の英語だ。香港政府や上場企業のプレスリリースは中国語と英語の両方が用意されるケースが多く、政府高官らの記者会見ではいまも広東語、英語、北京語が飛び交う。

司法制度も英国式を引き継いでおり、裁判官や法廷弁護士はカツラをかぶる。コモンローと呼ばれる法体系は、司法機関も中国共産党の影響下にある中国本土との大きな違いだ。いまだに外国籍の裁判官も存在する。独立した司法制度は、ビジネス都市としての大きな強みといえる。

もっとも、19年の大規模デモや20年の香港国家安全維持法(国安法)施行を経て中国の影響力が強まり、英国の伝統はしばしば論争の的になってきた。

親中派の立法会(議会)議員、何君堯氏は4月、裁判官のカツラや法服をやめるよう政府に促した。親中派には植民地文化を引きずっているように見える面があるためだ。最高裁長官にあたる終審法院の首席法官を務めた馬道立氏は香港紙のインタビューで「カツラはいずれなくなる。政治化すべきではない」と述べた。

香港島にある「ビクトリア公園」の名称を「人民公園」に変えるようSNS(交流サイト)などで主張するグループも存在する。ビクトリア公園は天安門事件の追悼集会や大規模デモの出発点で知られる政治的な場所でもある。

植民地時代に英国から送り込まれ、香港を統治した総督の名前を冠した道路なども多数残っているものの、名称変更は容易ではない。

活現香港の陳氏は「植民地時代は香港の歴史の大部分を占めており、過去を一掃することはできない。好むかどうかは別にして、歴史的な遺産は有効に利用すべきだ」と語る。

(香港=木原雄士)

英国領香港 アヘン戦争で敗れた清朝は1842年の南京条約により香港島を英国に割譲した。1860年の北京条約で九竜半島の先端も英国領土になり、1898年には新界地区を99年間の期限つきで租借した。香港は日本が占領した1940年代の一時期を除き、1997年に中国に返還されるまで英国の統治下に置かれた。英政府が任命する香港総督が大きな権限を持ち、貿易港として発展を遂げた。97年の返還後、香港は中国の特別行政区になった。

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