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米国、ASEAN関係を格上げ 中国対抗で協調探る

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【プノンペン=大西智也、ワシントン=中村亮】バイデン米大統領は12日、カンボジアの首都プノンペンで、東南アジア諸国連合(ASEAN)と首脳会議を開いた。外交関係について「包括的戦略パートナーシップ」への格上げで合意した。米国の関与強化をアピールし、中国に対抗する。

バイデン氏は米大統領として5年ぶりにASEANとの対面での定例首脳会議に臨んだ。会議の冒頭でバイデン氏は「我々は法の支配に対する脅威に立ち向かい、自由で開かれたインド太平洋を構築するために、ともに取り組んでいく」と強調した。

前大統領のトランプ氏は2017年にマニラでの会合に出席して以降、ASEANとの定例会議に連続して欠席した。バイデン氏は21年1月の大統領就任後、初めての東南アジア訪問で地域への関与を強める方針だ。

サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)はプノンペンに向かう大統領専用機内で記者団に対し、米・ASEAN首脳会議で航行の自由について議論すると明らかにした。バイデン氏は南シナ海の実効支配を進める中国を念頭に、首脳会議で「南シナ海問題などの課題を共有し、新たな解決策をみつけていきたい」と話した。

目玉になるのが海上での違法取引や違法漁業の監視だ。日米豪印の枠組み「Quad(クアッド)」は5月、人工衛星などを利用して各国が持つ情報を集約し、膨大な海の状況を包括的に把握する枠組みをつくることで一致した。この枠組みを情報収集能力で米国に劣る東南アジア諸国に使ってもらう見通しだ。

フィリピンやベトナム、マレーシアは南シナ海で中国と領有権を争う。中国は領有権を争う海域に民間漁船を派遣し、実効支配を強めている。状況把握の枠組みを使うとASEAN各国が中国の動きを早期に発見して対処できると米国はみる。米軍との直接的な防衛協力とみなされにくく、ASEANが受け入れやすい利点もある。

米国とASEANはこれまで「戦略的パートナーシップ」を結んでいた。公衆衛生や気候変動対策などにも対象分野を広げ、包括的な協力関係を築く。

包括的な戦略パートナーシップをめぐっては、中国が21年11月にASEANと結んでいた。米戦略国際問題研究所(CSIS)のグレゴリー・ポーリング上級研究員は「米国だけでなくASEANも関係強化に真剣であることを示す重要なシグナルだ」と話す。

バイデン氏は首脳会議で、新型コロナウイルス対策や気候変動対策に加えて、インフラ整備や貿易で協力を伝えた。

ASEAN側は激しさを増す米中対立が飛び火することへの懸念が一段と高まっている。インドネシアのジョコ大統領は11日のASAEN首脳会議で「ますます激化する大国間の競争をASEANはどう乗り越えるべきか考える必要がある」と強調し、ASEANの団結を訴えた。

ロシアのウクライナ侵攻を巡る問題でも、ASEAN各国の立場は異なる。国連総会が10月にロシアが一方的に宣言したウクライナ4州の「併合」を「違法で無効」とする決議を巡り、タイ、ベトナム、ラオスが棄権に回っている。ASEANは「中立」を外交方針とする原則があり、米国と温度差がある。

新アメリカ安全保障センターのリサ・カーティス上級研究員は、バイデン政権が経済分野での協力を強める必要があると訴える。米政権は新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を推進する。市場開放を対象に含んでおらず、具体的なメリットがみえにくいとの指摘がある。

フィリピンのホセ・マヌエル・ロムアルデス駐米大使は8月末の日本経済新聞の取材でIPEFについて「恩恵を受けるのは次の政権かもしれない」と話し、即効性は乏しいとの見方をにじませた。

ポーリング氏も「新しい取り組みを開始するより、すでに決めた取り組みを実行に移すことが重要だろう」と語り、米国が具体的な成果を早く示す必要があるとみている。

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