中国新築住宅、団体購入割引広がる 国有企業職員ら想定

【北京=川手伊織】中国の中小都市で、新築マンションの団体購入を促す動きが広がっている。国有企業など公的機関の職員を主な売り込み先として、値下げ販売の規制を緩める。民間企業の従業員より待遇が恵まれた公的部門に勤める人々に住宅を買わせ、需要の冷え込みを食い止めたい考えだ。
中国のネットメディア「澎湃新聞」によると、6月以降、12省・自治区にある20を超す地方政府が団体購入の促進策を打ち出した。このうち10都市は9月に入ってから公表した。省都以外の中小都市が大半を占める。
東部の浙江省紹興市の一部地域は、10戸以上をまとめて購入すれば最大8%の値引きを認める。同地域ではもともと、不動産開発企業の届け出価格から1割までしか値下げを認められなかった。団体購入なら最大18%の値引きを受けられる。
地方政府が主要な販売先として期待するのが、共産党や政府の組織、国有企業で働く職員だ。

国有企業の待遇は民間企業より恵まれている。中国国家統計局が発表した2021年の都市部の賃金状況によると、国有企業に勤める人の年間賃金は11万5583元(約235万円)で、6万2884元だった私営企業と比べて1.84倍の開きがあった。14年の1.57倍から拡大傾向にある。
相対的に購買力が高い国有企業職員らの購入を促し、住宅市場の需給改善を狙う。21年夏以来の販売不振でマンション在庫は積み上がっている。22年8月末時点の新築物件の在庫面積は、各年8月末で比較すると、4年ぶりの大きさに膨らんだ。

在庫圧縮で価格下落の圧力が弱まれば、民間企業勤めを含めて家計の住宅購入意欲が持ち直す可能性がある。新築販売の回復が新たな住宅開発の需要を生み出し、地方政府が開発企業に国有地使用権を売って稼ぐ土地収入も確保しやすくなるとの算段もある。
ただ割引の拡大だけで団体購入を促せるかは不透明だ。中国メディアによると、6月末に団体購入支援策を公表した浙江省杭州市桐廬県では1カ月たっても団体購入の案件が成約しなかった。
天津市政府の関係者は「社会の手本として率先して家を買えと言われても、住宅市場が低迷している今は様子見した方がよいに決まっている」と素っ気ない。中小都市では人口流出で構造的な住宅需要がしぼんでいる。
関連企業・業界