G20分断あらわ ウクライナ問題で非難の応酬

【バリ島(インドネシア)=地曳航也、松本史】20カ国・地域(G20)は8日の外相会合でロシアのウクライナ侵攻に伴う食料とエネルギーの需給逼迫の問題を協議した。ただロシアと日米欧の間で非難の応酬となって歩み寄れず、G20の機能不全ぶりは強まるばかりだ。
8日午前に始まった実質協議で、林芳正外相は食料とエネルギー価格の高騰は西側諸国の対ロ制裁が原因とするロシアの主張は「完全な偽りだ」と指弾した。「ロシアの侵略こそが原因だ」とも訴えた。
ロイター通信によると、ブリンケン米国務長官は「ウクライナはあなたの国ではない。ウクライナの穀物はあなたのものではない」と語り、ロシアにウクライナの食料輸出を妨げないよう求めた。
日米欧など主要7カ国(G7)は足並みをそろえて会合に臨む方針を確認していた。ロシアのG20からの排除を訴える米国などには、ロシアがG20の各種会議に参加した場合のボイコット論もあったが、ロシアと後ろ盾の中国が主導権を握る事態を懸念し、会合に出てロシアの主張に反論する戦略をとった。
会合でオンライン演説したウクライナのクレバ外相は「ロシアは片手で我々の港を封鎖し、もう片方の手で責任をウクライナに転嫁し、世界と飢餓ゲームをしている」と批判した。ウクライナはG20に属していないがインドネシアが招待した。
ロシアのラブロフ外相はクレバ氏の演説の前に退席した。ラブロフ氏は「ウクライナの港に閉じ込められている穀物は世界生産の1%未満だ」と指摘し「食料安保に影響はない」と主張した。そのうえで解決に必要なのは欧米が「ロシアと穀物(輸入)契約をしている国への商品納入の阻止をやめることだ」と持論を展開した。
議長国のインドネシアのルトノ外相は会合終了後の記者会見で「すべての出席者が食料とエネルギーの価格高騰に懸念を示した」と表明した。そのうえで「出席者は世界の食料とエネルギーの安保強化に向けG20の協力を進めることを約束した」と訴えた。
G20外相会合はロシアが2月下旬にウクライナに侵攻した後、ロシアや後ろ盾となる中国、両国と対立するG7などの外相が対面で一堂に会する初の機会となった。ただ8日の実質協議の開始前からウクライナ問題をめぐる参加国間の亀裂があらわになった。
インドネシアが7日に非公式で開いた歓迎夕食会。林氏らG7の代表は出席を見送った。ラブロフ氏と社交の場で同席するのは適切ではないとの判断だ。関係者によると、G7と連携するオーストラリアのウォン外相も冒頭のルトノ氏のスピーチだけ聞いて退席した。
インドネシアは会合がG20の分断の象徴となるのをおそれ、恒例の外相らによる集合写真の撮影を見送った。ラブロフ氏が出席した場合、西側諸国が参加しない可能性があったためだ。
G20の枠組みはアジア通貨危機後の1999年に始まった。首脳会議(サミット)は2008年の世界金融危機への対応を協議するため初めて開催し、その後毎年続く。世界の国内総生産(GDP)の8割、人口の3分の2を占め、国際的影響力を高めてきた。だがロシアのウクライナ侵攻前から、政治体制の違いによる対立が目立つ。
11月にバリ島で開くG20サミットで議長を務めるインドネシアのジョコ大統領は、ロシアのプーチン大統領に加え、ウクライナのゼレンスキー大統領にも参加を要請している。ロシアの排除を訴える米国に対する懐柔策で、全首脳が出席する形での開催をめざす。
サミットでも食料やエネルギー危機を取り上げる見通し。今回の外相会合であらわになった亀裂を修復できなければ、G20はいよいよ存在意義を問われることになる。

2022年2月にロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって1年になります。戦況や世界各国の動き、マーケット・ビジネスへの影響など、関連する最新ニュースと解説をまとめました。
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