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キャセイ航空、回復出遅れ 競合黒字転換も3期連続赤字

【香港=木原雄士】香港のキャセイパシフィック航空の業績回復が遅れている。新型コロナウイルスの流行を受けた大規模リストラで人手が足りず、2022年12月期は3期連続の最終赤字となった。国際線専業で競合するシンガポール航空などは黒字転換を果たしており、キャセイの出遅れはアジアの乗り換え需要を巡る競争力低下につながりかねない。

「この3年間は我々の歴史のなかでもっとも厳しかった」。キャセイのパトリック・ヒーリー会長は8日の記者会見でこう振り返り「新たなキャセイを再建しているところだ」と述べた。22年3月12日の旅客数はわずか58人だったといい、新型コロナに伴う厳しい入境規制で運航に大きな支障が出たことが浮き彫りとなった。

8日発表した22年12月期決算は売上高が前の期比12%増の510億香港ドル(約8900億円)、最終損益は71億香港ドルの赤字だった。最終赤字は3期連続で、前の期(61億香港ドル)から拡大した。

キャセイは通常の国内線にあたる路線をもたず、コロナによる外国や中国本土との往来規制の影響を大きく受けた。コロナ前は300万人前後いた月間旅客数が数万人まで落ち込んだが、昨年9月の香港入境時の隔離撤廃など規制緩和をきっかけに徐々に回復してきた。今年1月の旅客数は103万人と、約3年ぶりに100万人台に戻った。

2月には中国本土と香港の往来規制が完全撤廃され、香港政府も50万人に無料航空券を配る大規模な観光キャンペーンを始めた。キャセイは旅客便の再開や増便によって運航能力を急ピッチで引き上げる姿を描く。3月末にコロナ前の5割まで回復する見通し。これを23年末までに7割、24年末までにコロナ前と同じ水準まで戻す。

ただ、課題は深刻な人手不足だ。20年に全従業員の24%にあたる8500人を削減する大規模なリストラに踏み切り、海外のパイロット拠点も閉鎖した。旅客需要が激減する中で現金流出を抑えるための方策だったが、19年末に約2万7000人いた従業員は22年末に1万6400人まで減少した。

特に大きく減ったのがパイロットや客室乗務員だ。21年末と19年末を比べると、パイロットなど乗員は34%、客室乗務員は50%それぞれ減った。厳格なコロナ規制が3年近く続き、不動産や保険販売の仲介人(エージェント)、秘書、美容師など他業種に転職した人も多い。

キャセイは22〜24年に8000人を採用する計画で、22年には約2000人を確保した。ただ、客室乗務員の基本給は月9100香港ドル(約16万円)にとどまり「即戦力の採用は難しいのではないか」(業界関係者)との見方も出ていた。

客室乗務員の労働組合によると、キャセイは22年1月から1便あたりの担当者の数を減らした。1人あたりの労働負荷が高まり、顧客サービスも低下したとして労組が反発。今年1月には残業を拒否するなど順法闘争に入ると宣言した。

ヒーリー氏は8日の声明で「スタッフの勤務スケジュールや顧客サポートのホットラインに問題が生じている。こうした問題を最小限にしていきたい」と釈明した。

キャセイは23年に3000人規模の追加採用を検討しており、人員増強と業務の効率化など生産性向上で人手不足を克服したい考えだ。今年1月に就任した林紹波(ロナルド・ラム)最高経営責任者(CEO)は従業員に向けたメッセージで「多くの航空会社がパンデミックを経てスリムになり、我々から顧客を奪おうとしている。これまでのやり方では競争力がなく、変える必要がある」と述べた。

キャセイと同じく国際線に特化するシンガポール航空や、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイを拠点とするエミレーツ航空はコロナの落ち込みからいち早く抜け出した。英航空情報会社OAGによると、キャセイの22年の提供座席数はコロナ前の19年と比べて3割の回復にとどまったのに対し、シンガポール航空とエミレーツは7割台まで戻った。

シンガポール航空は22年4〜12月期に最終黒字に転換。エミレーツグループも22年4〜9月期に黒字になり、半期として最高益だった。エミレーツは上海や北京などの中国本土便の再開や増便を相次いで決め、3月末からドバイと香港も週14便に増やす。

光大証券国際の伍礼賢ストラテジストは「中国以外の国はかなり早くコロナ規制を緩和したのでキャセイとは回復ペースが異なる。中国の航空会社やキャセイは人材確保や航空便の回復に時間がかかっている」と指摘する。

香港内でも競争と無縁ではない。中国の実業家・黄楚標(ビル・ウォン)氏が設立し、22年に営業を始めた新会社、大湾区航空(グレーターベイ・エアラインズ)は3月、米ボーイングから小型機「737MAX」シリーズの「737-9」を15機購入する契約を結んだ。主力機材と位置づけ、アジアの主要都市との路線網を充実させる。

キャセイはコロナ禍で香港政府から巨額の財政支援を受けた。林CEOは8日の会見で政府が保有する優先株への配当を年内に実施する考えを示し「23年の旅客需要の見通しはかなり楽観的だ。貨物も通常よりはいい。(コロナからの)回復は他より遅れたがかなり速く追い上げている」と語った。

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