韓国で強まる反中感情 北京五輪の「韓服」が波紋

【ソウル=恩地洋介】韓国で反中感情が高まっている。北京冬季五輪の開会式で、朝鮮半島の伝統衣装であるチマ・チョゴリ(韓服)を着た女性が登場し、インターネットを中心に「中国が韓国の文化を盗んだ」との反発が広がった。批判は抗議をしない韓国政府にも向けられるなど、1カ月後に迫る大統領選にも論争を与えそうだ。
反中世論を巻き起こしたのは、4日に開かれた五輪開会式のワンシーンだった。中国の国旗とともに56の民族代表が出演する場面で、ピンクと白の韓服をまとった朝鮮族の女性が現れた。
韓国のSNS(交流サイト)やネットは「中国が韓服を自分たちのものにしようとしている」との声であふれた。メディアも反応し、7日付のソウル新聞は社説で「明白な文化侵奪だ」と主張した。革新系紙ハンギョレは「歴史歪曲(わいきょく)の試みには堂々と立ち向かうべきだ」と問題提起した。
最近の韓国では、文化や歴史に関する中国の主張への過敏な反応が繰り返されている。昨年は中国人の人気ユーチューバーが投稿した動画に世論が沸騰した。
動画は白菜を調味料と合わせて漬け込む内容で、ユーチューバーはこれを「中国の食べ物」と紹介した。中国にも「泡菜(パオツァイ)」という漬物はあるものの、韓国人は「キムチ文化を盗まれる」と強く反応した。
韓国側が中国の「侵奪」に神経をとがらせるのには理由がある。中国は2000年代以降、古代に朝鮮半島を支配した高句麗や渤海を独立国ではなく「中国の地方政権だった」と位置づける事業を展開してきたからだ。
政治的、経済的な影響を強める中国への警戒心も働いている。政府系シンクタンクの統一研究院が2021年12月公表の調査で「日米中ロ4カ国のうち、安保上の脅威はどこか」を尋ねたところ、トップの中国は71.9%と2位の日本(21.1%)を大きく引き離した。
韓服問題を巡っては、静観を決め込んだ韓国政府に対しても「低姿勢外交だ」との批判が出た。中国を訪れていた朴炳錫(パク・ビョンソク)国会議長は5日、栗戦書全国人民代表大会常務委員長と会ったが「懸念」を伝えるにとどまった。
反中感情がとりわけ強いのは20~30代の若年層だ。無党派が多いこの年代の動向は接戦の大統領選を左右するとみられており、与野党の候補者は早速、中国批判を展開した。
5日には与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)前京畿道知事が「中国は過去にも歴史問題で我々の自尊心を傷つけた。納得しがたい政策だ」と強調。保守系野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソクヨル)前検察総長も「高句麗と渤海は韓国の誇らしい歴史だ」と反発した。
ただ、公約で2人の対中姿勢には差がある。李氏は経済的な影響力から「中国とはできるだけ友好関係を維持する」との立場だ。日米韓の安保連携を重視する尹氏は、中国が反対する地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の追加配備を唱えている。
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