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中国フィンテック、弊害多い統制強化(The Economist)

The Economist

中国当局がアリババ集団傘下の金融会社アント・グループへの統制を強めている背景には、つまらない理由とれっきとした理由の両方がある。同社は昨年11月、世界最大規模の新規株式公開を計画していたが、公開まで48時間を切っていた段階で当局に待ったをかけられた。それ以降、成長著しい同社を統制しようとする動きが続いている。

中小企業向けの小口融資などアントが果たしてきた金融機能を評価する声も少なくない(中国浙江省杭州市のアント本社ビル)=ロイター

つまらない理由というのは、歯にきぬ着せぬ物言いで知られる同社の創業者、馬雲(ジャック・マー)氏が率直すぎる発言で中国指導部の怒りを買ったというものだ。れっきとした理由は、アントが金融秩序を脅かしているために政府が対策を講じざるをえなかったというものである。

国営メディアの報道では、同社はテック企業を名乗りながら融資を手がけていて「大きすぎてつぶせない」企業になっている。つまらない理由が本当だとすれば、それは中国固有の問題であり、実業界の大物への共産党の統制強化を映していると片付けることができる。

ただ、れっきとした理由のほうには耳を傾ける価値がある。世界に与える影響を考えれば、なおさらだ。米国のアップルやフェイスブック、グーグルが決済やその先のサービスへと踏み出すなか、巨大IT企業の金融進出に対する規制のあり方はとりわけ重要な問題になるからだ。

サブプライムローンとの大きな相違

中国当局はアントがテクノロジーを駆使して消費者向けサブプライムローンとも呼べるサービスを提供していると非難している。同社は個人や法人の小口資金の借り手を見つけ、銀行からの資金を提供するビジネスモデルをとる。顧客が接触するのは仲介者である同社の洗練されたアプリだけだ。

同社が自己資金でまかなう融資は全体のわずか2%にすぎず、残りは銀行などが提供している。アントは実質的に銀行の代理店として機能し、銀行に絶えず融資先を紹介している。アントは2000年代前半に米国でサブプライム住宅ローンを手がけていた企業と同じく、自己資金不足が懸念されているわけだ。

では、どうすれば同社の野放図な融資を阻止できるのか。中国当局の出した答えは、貸出額の30%に相当する資金の確保を義務付ける規制案を策定して資本増強を求め、貸し出しを抑えるというものだ。中国人民銀行(中央銀行)も昨年12月27日、利ざやとリスクの低い決済事業への回帰を求めたと明らかにした。

中国当局の打った手は一見、賢明な策にみえる。だが、さらに緩い規制が妥当だという主張にも確固たる根拠がある。まず、サブプライムローンとの同一視はあまり適切ではない。アントが手がける融資の大半は小口で、貸出期間も数カ月程度にとどまり、多くの業界に分散している。

同社は絶え間なく短期の小口融資を繰り返しており、貸し倒れが急増すれば銀行は瞬時に貸し出しを圧縮できる。一方、サブプライム住宅ローンは融資の額も期間もけた違いで、不動産市場と連動しており、アントの貸し付けサービスとは大きく異なる。

無視できない経済への好影響

フィンテックはまだ新しく、その影響について詳細に分析されるようになったのは最近になってからだ。そうした分析では、過度に規制した場合に生じる別の問題点が浮き彫りにされている。フィンテックは経済に好影響をもたらすものであり、当局が抑え込んだらその可能性を制限してしまうという問題だ。

注目すべき点は3つある。まず挙げられるのは、フィンテック企業が銀行から融資を受けられない人々を取り込んでいる点だ。銀行は通常、融資先を個別に審査するため、規模が大きく安定した顧客を選好する。フィンテック企業はその逆を行っている。

ジュネーブ大学のハラルド・ハウ教授らは、電子商取引(EC)サイトの出店者290万店にアントが提示した融資について調査した。その結果によると、銀行の貸出額が少ない都市で信用スコアの低い事業者の39%がアントの融資を利用していた。一方、銀行の貸出額が多い都市では信用スコアの高い事業者の利用率が17%にとどまっていた。

中国以外でも同じような傾向がみられる。国際決済銀行(BIS)の研究者が13~19年にかけて79カ国を調査したところ、銀行業界の競争が緩く、小口融資を手がける動機が弱い国ほどフィンテック企業の貸し出しが伸びていた。

人種による差別も少ないようだ。米国の住宅ローン市場の調査では、ローン申請者が審査に通らない比率はフィンテック企業では人種的マイノリティー(少数派)と白人で大差なかった。一方、顧客と直接対面する金融機関ではマイノリティーが白人を6ポイント上回っていた。

全ての人に金融サービスを届ける「金融包摂」は大事だが、フィンテック企業も融資の大部分が焦げ付けば長続きはしない。そこで2番目の点である、フィンテックを支える膨大なデータとアルゴリズム(計算手法)が重要になる。アントは顧客の人脈から消費傾向まで数百もの変数を与信モデルに組み込んでいる。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)前には、同社が小規模企業に貸し出したローンの延滞率は2%程度で、銀行の6%を下回っていた。

金融安定理事会(FSB)のメンバーだったジョン・フロスト氏などのエコノミストたちは19年に発表された論文で「フィンテック企業は銀行よりも情報面で優位に立つ」という仮説をアルゼンチンの事例を使って検証した。その結果、仮説は正しいことがわかった。同国のEC大手メルカドリブレの高リスク顧客向け融資の貸倒率は2.8%と、優良な小規模企業向けの銀行融資の貸倒率と遜色なかった。

最後のポイントは、フィンテックによる貸し出しが経済を危機に陥れるどころか、経済のレジリエンス(回復力)を高めることだ。BISのレオナルド・ガンバコルタ氏らがアントと従来型銀行の両方から融資を受けた中国企業200万社以上を調査したところ、銀行融資は周辺の住宅価格と密接に連動していることがわかった。融資担当者は住宅価格を担保としてだけでなく、経済状況を判断する簡易指標としても信用している。

フィンテック企業の融資は住宅価格と連動しておらず、取引高など事業健全性を測る指標にリンクしていた。銀行は住宅市場の低迷期には小企業への貸し出しを絞り、景気悪化に拍車をかける。一方、不動産を担保に取らないフィンテック企業はもっと安定的に貸し出しを続け、経済への悪影響を食い止める可能性がある。

求められる育成の視点

とはいえ、フィンテック企業が新しい問題を引き起こさないわけではない。手軽に融資を受けられれば、消費者が多額の負債を背負うことにもなりかねない。大量にため込んだデータを悪用する企業が出てくる可能性もある。

中国では数年前、インターネット上で個人間のお金の貸し借りを仲介するP2P(ピア・ツー・ピア)融資業界で不正が相次いだ。規制当局はそうした事態を防ぐため、厳しく対応すべきだ。経営状態が良好な企業が市場を独占するという深刻なリスクもある。アントも事業規模がある程度大きくなった時点で、市場での支配力をテコに競合他社を締め出して利益を増大させた。

だが、大局的な視点も必要になる。フィンテックはまだ生まれたばかりだ。アントは世界の新興企業としては圧倒的な規模を誇るが、仲介した融資の総額は中国の商業銀行が保有する資産総額の1%にも満たない。規制当局が思慮深ければ、この段階では統制を強めるのではなく自由に動ける余地を与えるだろう。

(c) 2021 The Economist Newspaper Limited. January 2, 2021 All rights reserved.

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