マレーシア、中国船の侵入に抗議 南シナ海で摩擦続く

【シンガポール=中野貴司、北京=羽田野主】マレーシア外務省は4日、中国の調査船が南シナ海のマレーシアの排他的経済水域(EEZ)に侵入したため、在マレーシア中国大使を呼び抗議したと発表した。6月にも中国軍機のボルネオ島沖の領空侵入に対して抗議しており、南シナ海問題を巡って、領有権を争う中国との摩擦が続いている。
外務省の声明によると、調査船が活動を繰り広げたのはボルネオ島沖のEEZ。外務省は詳細を明らかにしていないが、地元メディア、マレーシアキニによると、中国の調査船は9月下旬にマレーシアのサバ州の海岸から約140キロメートルの地点に侵入。中国海警局の船の護衛を受けながら、マレーシアの国営石油大手ペトロナスの石油探査船に近づいていったという。
外務省は中国の行動が「国連海洋法条約に違反している」と批判。南シナ海問題は「平和で建設的に解決すべきだ」と改めて主張した。
外務省は6月にも、中国軍機16機が5月末にボルネオ島沖の領空に侵入したとして抗議声明を出している。地元メディアによると中国海警局の船は6月、ボルネオ島近くの南シナ海のマレーシア領海に接近していた。いずれも南シナ海での中国の領有権の主張を誇示し、既成事実化する狙いだとみられ、マレーシア政府は警戒を強めている。
マレーシアは中国と経済面では連携を拡大させているが、南シナ海問題を含む安全保障分野では一定の距離を維持する姿勢をみせている。中国は新型コロナウイルス対策で協力するなどして、米英豪の新たな安全保障協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」を警戒するマレーシアの取り込みをはかっている。中国の王毅(ワン・イー)国務委員兼外相は9月下旬に、マレーシアのサイフディン外相と電話協議した際、科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)のワクチン100万回分を追加供給すると表明した。
そのさなかにもかかわらず中国の調査船がマレーシアのEEZに入ったのは、習近平(シー・ジンピン)指導部が南シナ海を中国の「核心的利益」と位置づけて、関与を深める米国や、領有権を主張する東南アの国にも一歩も譲らない構えをみせているためだ。
中国は2月にも海警法を施行し、南シナ海を管理下に置こうとする動きを強めている。少しずつ小さな既成事実を積み重ねて時間をかけて相手の権益を崩していく「サラミ戦術」の可能性がある。