ベトナム、2副首相を更迭 汚職撲滅を強化

【ハノイ=大西智也】ベトナムの国会は5日に開幕した臨時国会で、外交全般を統括するファム・ビン・ミン筆頭副首相と保健部門を担うブー・ドク・ダム副首相の解任を決めた。いずれも担当分野にからむ汚職事件の監督責任を問われ、更迭されたとみられる。国営メディアなどが報じた。
ベトナム共産党は2022年12月30日、ミン氏とダム氏について党の議決機関である中央委員会の委員の職を解いた。ミン氏は最高指導部の政治局員も解任された。最高指導者のグエン・フー・チョン党書記長は汚職撲滅を推し進めており、2人の副首相の責任が問われる異例の事態に発展した。
ミン氏は共産党の最高幹部の一人で、11年から外相を務め13年からは副首相を兼務した。21年には外相のポストを後任に譲り、筆頭副首相として外交全般を取り仕切ってきた。ダム氏は13年から副首相を務め、新型コロナウイルス対策を指揮してきた。
後任の副首相はチャン・ホン・ハー天然資源・環境相とベトナム北部のハイフォン市共産党委員会のチャン・ルー・クアン書記が選任された。
ミン氏が問われたとされるのは、新型コロナの流行時に海外在住のベトナム国民の帰国便の手配を巡る汚職事件の監督責任だ。優先搭乗させた乗客から賄賂を受け取っていたとして外務次官や駐日大使の経験者、旅行業界関係者ら約40人が逮捕されている。ブイ・タイン・ソン外相に対しても党から厳重注意処分が出ている。
一方、ダム氏が所管する新型コロナ検査キットの調達を巡る政府入札の不正事件では前保健相や首都ハノイ市の前人民委員会委員長(ハノイ市長)ら幹部が党から除名された後、逮捕されている。一連の問題で逮捕者は100人に上っている。
3期目のチョン氏は共産党の理論や主張を重視する党内保守派を率いる。汚職のまん延で国民の不満が高まり、一党支配が崩れることに対する危機感が強い。事実上更迭されたミン氏とダム氏は「党内で清潔なイメージがあり、国民の人気も高かった」(外交筋)とされる。今回の厳格な処分でチョン氏の権力基盤が一段と強化され、経済運営でも統制が強まる可能性がある。
ファム・ミン・チン首相の下には4人の副首相がいるが、今回2人が責任を問われ、1人が病気で療養中との観測が出ている。反汚職の動きは党幹部だけでなく地方組織にも幅広く及んでおり、投資に関する許認可の遅れにつながっている。特に多くのインフラ投資で手続きが進まず、外資系企業の経済活動にも影響が出ている。
ベトナムでは5年ごとに共産党大会が開かれ、指導部人事などを決定する。次回の党大会は26年に予定され、高齢の党幹部が大幅に交代するとみられている。チョン氏の有力な後継者は現時点で見当たらず、チョン氏の意向を受けた党幹部らの摘発は今後も続くとみられている。
ベトナムでは新興企業トップの摘発も続いている。22年には不動産事業が中核で航空事業も手掛けているFLCグループや、不動産開発大手のバンティンファット・グループの経営者らが詐欺などの容疑で相次いで逮捕された。不動産業界では摘発を恐れ、大規模な資金調達を手控える動きが出ている。
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