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スエズ座礁、国際供給網を守れ(The Economist)

The Economist

エジプトのスエズ運河で3月末、20万トン級の大型コンテナ船「エバーギブン」が座礁し、1週間近く航行を遮断した。この世界最大級のコンテナ船は、グローバル化の行き過ぎに対する反発の象徴でもある。

スエズ運河で座礁した世界最大級のコンテナ船エバーギブン。自給自足型の供給網への移行には大きなリスクが伴う=ロイター

1990年代の初めから、国際的なサプライチェーン(供給網)の効率化が進んだ。関係する企業の専門性が高められ、スケールメリットを求めて生産・供給が集約された。しかし今、巨大化したコンテナ船の制御が難しくなったのと同様に、世界に張りめぐらされたサプライチェーンが国際経済のアキレスけんになりかねないという不安が高まっている。

半導体では、世界で供給不足が生じ、自動車メーカーが世界各地で工場の操業停止を迫られている。スウェーデンの衣料品大手ヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)は、中国共産党が少数民族のウイグル族を拘束し強制労働させている新疆ウイグル自治区からの綿調達の停止を表明したことで、オンラインの世界で中国の不買運動に直面する。

効率優先からレジリエンスへ

欧州連合(EU)とインドは新型コロナウイルスワクチンの輸出を規制し、ワクチン接種の拡大を急ぐ世界各国の取り組みを妨げている。新型コロナとの闘いや地政学的な緊張の高まりに直面して、多くの政府が効率第一の方針を改め、レジリエンス(危機への耐性)と自給自足を新しいスローガンに掲げている。

サプライチェーンに強固さが求められるのは当然だ。国家は安全保障が危機にさらされれば、物資の安定調達の確保を迫られる。だが、各国政府が一気にグローバル化を逆転させる事態は防ぐ必要がある。弊害が大きいばかりでなく、予想外の脆弱性を生み出すことにもなりかねないからだ。

グローバル化の反対論者は、一部に生産が集中し、緩衝在庫がなくなったという弊害を訴える。サプライチェーンは、人間の手による非常に洗練された努力のたまものだ。iPhone(アイフォーン)は米アップルの49カ国に広がる企業のネットワークに依拠している。ワクチン製造大手米ファイザーのサプライヤーは5000社を超える。しかし、効率化を徹底して追求した結果、在庫は減り、ネックになる急所が生じた。

新型コロナのパンデミック(世界的流行)の初期、外国産のマスクや検査キットの争奪戦が発生、有権者や政治家を当惑させた。先端半導体の半分以上はごく一部の台湾や韓国企業によって生産されている。電気自動車(EV)の蓄電池に使われるコバルトの加工は、中国が世界の72%を担う。コンサルティング大手の米マッキンゼー・アンド・カンパニーによると、1カ国が輸出を独占する物品は約180品目に上るという。

各国に自給自足を目指す動き

地政学的な緊張が高まるなかで、供給網の特定地域への依存は特に危険だ。国際貿易のルールが揺らぎ、世界の国々は他国との相互依存に及び腰になっている。新型コロナの感染が世界に広がると、各国は140を超える特殊な通商規制を設定し、多くの国が水面下で外国企業による対内投資の審査を厳しくした。

多くの国が、外国の巨大IT(情報技術)企業に対するデジタル課税をどうするか、温暖化対策が不十分な国からの輸入品に価格を上乗せすべきか、といった問題を抱えている。しかし、現在ではこれらの問題に自ら対処する体制を整える動きが広がっている。米中対立が激しくなるなかで、禁輸措置だけでなく、軍事衝突のリスクも高まっている。米国はトランプ前米大統領の下で国際貿易体制を衰退させたが、後任のバイデン大統領もその再構築に政治力を駆使する可能性は低い。

このような状況で各国政府は物資の安定調達を図らなければならないが、打てる手は限られている。新しいエネルギー源の研究開発を支援することなどは可能だ。補助金の給付や供給の国内回帰という方法もあるが、それが正当化されるのは、生命線になる物資の調達が特定の国に依存し、その供給が敵対する国に妨害される可能性がある場合に限られる。希少鉱物の一部はこれにあてはまるが、手の消毒液はそうではない。

供給網に対する政府の介入は必要最低限であるのが望ましく、過度の介入にはリスクが伴う。保護主義の傾向を強めるインドのモディ首相が、「vocal for local(国産品のために声を上げよう)」という合言葉を唱えているのが典型的だ。

バイデン米大統領は2月24日、半導体などの重要部材のサプライチェーンを100日以内に見直す大統領令に署名した。EUは3月9日、域内で生産する次世代半導体の世界シェアを30年までに20%に倍増させる目標を発表した。これに先立ち、昨年末にはEV用の電池を25年までに域内生産でまかなう方針も打ち出している。

中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は昨年、中国経済を外圧から守るため、国内と国外の2つの供給網を確保する「双循環」構想を打ち出した。こうした政策は具体性に乏しいものの、雇用と生産の国内回帰を志向し、補助金を伴うため、世界が自由貿易や開かれた市場に背を向けるきっかけになり得る。

こうした供給網の国内回帰の動きは正当化されない。政府管理下で築かれた国内完結型サプライチェーンは国際的な供給網よりもレジリエンスの点で劣るためだ。エバーギブンの座礁は大騒ぎにはなったが、貿易統計に与える影響は微々たるものだ。

国際調達網は経済に不可欠

パンデミック下でマスクの需要は飛躍的に高まったが、中国が生産量を10倍に増やして対応した。当初は豆類やパスタの買いだめも起きたが、8兆ドル(約880兆円)規模の世界の食品市場を支えるサプライチェーンは迅速に適応し、店頭の品切れはほぼ解消された。最新の新型コロナワクチンは国別の配分が論争を呼んでいるが、世界に張りめぐらされたネットワークを通じて今年100億回分が供給される見通しだ。

必要な物資の自給自足は安全策かにみえるが、政治家と有権者は食品、携帯電話、洋服、ワクチンなどは、すべて国際的なサプライチェーンを通じて供給されていることを忘れてはならない。

供給網の国内回帰を主張する向きは、相互依存のコストとメリットのバランスを見誤っている。相互に依存することの弊害は一時的で目に付きやすいが、その恩恵は雨水のしずくが垂れ落ちるがごとく粛々と積み重なる。調達網を二重に築けば効率が大幅に低下するうえ、莫大な経費増にもつながる。企業は既に海外のサプライチェーン構築に36兆ドルを投資済みだ。

補助金や追加関税で国内企業を競争から保護すればコストが増大し、負担は消費者に転嫁される。各国が自給自足政策を掲げれば、高度な産業を持てない小国や貧しい国が犠牲になる。製造業を国内に集中させれば、経済大国でも、国内有事、圧力団体の介入、品質問題などのリスクにさらされる。米インテルが半導体製造を国内回帰しようとしている動きも例外ではない。

レジリエンスは自給自足型の経済からは生まれない。多様な供給源と、民間セクターの不測の事態に対するたゆまぬ適応努力によって生まれる。グローバル企業は米中対立や気候変動など、長期的な脅威に対しても、新規投資先を微調整し続け、時間をかけて適応する。

国際貿易は今危機に直面している。グローバル化が開放性を生むように、保護主義や補助金に傾斜する動きは世界に波及する。数十年かけて進んできたグローバル化を今、座礁させてはならない。

(c)2021 The Economist Newspaper Limited. April 3, 2021 All rights reserved.

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