台湾・蔡総統、米代表団と会談 ウクライナ情勢受け

【台北=中村裕】台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は2日、台北市内で、バイデン米大統領の意向を受けて訪台した代表団と会談した。ロシアのウクライナ侵攻を受け、中国が台湾への圧力を強めるとの見方が一部で広がる中、米側は台湾に代表団を派遣する形で支援姿勢を改めてアピールし、中国をけん制した。
会談では冒頭、米軍の制服組トップを務めたマレン元統合参謀本部議長が「米台の重要なパートナーシップに対する支持を表明するために、ここに来た」と述べた。そのうえで「米国はいかなる一方的な現状変更にも反対する」とし、中国の動きを改めてけん制した。
これに対し、蔡氏は「台湾海峡の安全が脅かされており、米国と今後、より緊密な協力ができることを期待する」と語り、関係強化の必要性を訴えた。
米国は今回、ロシアによるウクライナへの侵攻で、不安が高まる台湾に対し、「台湾支持」という明確なメッセージを、改めて送る形を取った。
昨年来、米国から台湾への議員訪問が相次ぐ。だが、バイデン大統領の意向を受けた訪台は、2021年4月のアーミテージ元国務副長官などによる訪問以来、今回が2回目となる。
トランプ前政権が、厚生長官や国務次官など現役の高官を相次ぎ、台湾に派遣したレベルには及ばないものの、今回の代表団は、台湾有事などを意識し、マレン氏のほかフロノイ元国防次官など、かつて米政権を国防や安全保障の面から中枢で支えた人物で構成した。
ただ、米国はウクライナ情勢で世界が複雑さを増す中、「中国への過剰な刺激になることだけは避けたかった」(台湾の外交関係者)。今回の訪問団について、米側は事前の対外的な公表は避け、米側の意向をくんだとみられる台湾当局からの発表にとどめる形とした。
一方、中国もこの局面を複雑な思いで迎えている。国際情勢に詳しい台湾の王智盛・中華亜太菁英交流協会秘書長は、まずロシアに対しては「中国は今、非常に困惑している」と指摘する。ロシアの今回のやり方は、中国の普段の主張とは、正反対だからだ。「中国はチベットや新疆、香港、台湾などを内政問題とし、常日ごろから、外国が中国に干渉することを極端に嫌がってきた。だが、ロシアによる今回のウクライナ侵攻はまさに他国への干渉に当たる」(王氏)
しかし、中国は台湾に対しては、親中派の台湾メディアやSNS(交流サイト)などを通じ、ウクライナと台湾を結びつけ、市民の不安をあおっている。戦争などの不安をあおれば、対中強硬路線を敷く蔡政権には打撃となるためだ。
台湾当局は、こうした動きにいら立ちを隠していない。行政院(内閣)の羅秉成報道官は2月28日、中国を念頭に「『今日のウクライナは明日の台湾』などと、ウクライナ情勢を台湾と不適切に結びつけ、台湾を動揺させる工作をするべきではない」と訴えた。
一方で、中国の本音は、また別のところにもある。国際社会からは、ウクライナ問題と台湾問題を結びつけ、同列には扱われたくないとの、全く逆の思いだ。
王氏は「中国からすれば、台湾は自国の領土の一部だ。ロシアと、主権国家であるウクライナの関係とは全く立場が異なる。そのため、国際社会から同列に扱われることをかなり嫌がっている」と指摘する。
そのうえで「中国は今秋に共産党大会を控えており、習近平(シー・ジンピン)国家主席の3選がかかる。党大会が最も重要で、中国が今後、外的な要因に惑わされ、台湾になにか強引な手法を使うようなこともまずないだろう」と話した。

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