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ソウル雑踏事故、地元警察署など捜索 教訓生かせず

(更新)

【ソウル=恩地洋介】ソウルの繁華街、梨泰院(イテウォン)の雑踏事故で、韓国警察の対応の鈍さが浮き彫りとなり、批判が集まっている。事前に危険な状況を伝える複数の緊急通報を受けたにもかかわらず、人波の統制に動かなかった。死者の出た雑踏事故は過去にも起きたが、教訓が対策に生かされることはなかった。

聯合ニュースによると、韓国警察の特別捜査本部は2日、ソウル警察庁や竜山警察署などの家宅捜索に入った。警備計画の書類や通報記録などを押収したもようだ。特捜本部は警察内部の指揮体制や情報共有が適切だったかを調べるとみられる。警察庁長官に第一報が入ったのは事故発生から約2時間後だったことも明らかになった。

警察は1日、事故直前に受けた11件の緊急通報を公開した。最初の通報は事故発生の約4時間前、午後6時半すぎに入っていた。通報者は「路地に人が多く、圧死しそうだ」と統制を要請した。

2時間前の午後8時ごろからは「人が押し倒されケガをし、騒ぎになっている」「本当に人が死にそうだ」などと複数の出動要請が相次いだが、警察は現場に十分な人員を投入しなかった。137人の警官が動員されていたが、麻薬取引や性犯罪など防犯が目的だった。

警察の当事者意識が希薄だった理由を、韓悳洙(ハン・ドクス)首相は「制度や配慮が不足していた」と説明した。

主催者がおらず自然発生的に人が集まるハロウィーンのようなケースは、事前に安全計画を練る主体がなく、行政に「責任の空白」が生じていた。

一方で、10万人近くが集まると予想された現場の危険性をあらかじめ指摘する声はあった。韓国メディアによると、現場を管轄する竜山警察署が事故の3日前に「今年はクラブなどの営業が再開し、多くの人出が集中する可能性がある。事故が懸念される」との報告書をまとめ、共有していた。

10月中旬に近くで開催された別の行事は、ソウル市や管轄の竜山区が主催したため、警察は道路統制に当たった。事故当日に市内で開かれた政治デモには6500人の機動隊を投入してもいる。警察はマニュアル外の公共の安全を守る配慮に乏しかった。

日本では2001年に兵庫県明石市の花火大会で11人が死亡した事故の後、イベント会場など人が集まる場所での雑踏警備の在り方が議論された。兵庫県警は群集心理などの分析を含む「雑踏警備の手引き」を作成、警察庁は警備員の能力向上をはかる法改正をした。

韓国でも過去に人が亡くなる雑踏事故は起きている。05年には慶尚北道の尚州市で、歌謡コンサートを観覧しようと会場の出入り口に5000人が殺到し、11人が亡くなる事故があった。

警察・消防を所管する李祥敏(イ・サンミン)行政安全相は、梨泰院事故直後に「警察と消防をあらかじめ配置して解決する問題ではない」と発言し、雑踏警備に対する認識不足を露呈した。

韓国メディアの批判の矛先は警察や管轄の自治体に向けられている。保守系紙の東亜日報は大規模行事の制度の不備に関し「警察や竜山区は事前の警告を事実上黙殺した」と指摘。革新系紙ハンギョレは「責任の所在を明確にしなければ、再発防止策がおろそかになる」と徹底究明を求めた。

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