中小企業の何をどう引き継ぐ?
北原睦朗・大同生命保険社長 経営者編第2回(6月7日)
大阪の両替商「加島屋」は1902年に新規事業として大同生命保険を設立しました。この「第1の創業」と並び、業態を「中小企業に特化した生命保険」と決めた1970年代の「第2の創業」を私は重視しています。60年代に個人向け生命保険の市場が世帯普及率90%を超えるようになり、大同生命がそのままで業績を伸ばし続けるのは難しくなりました。厳しい状況下で提携団体との出会いがあり、「中小企業をお守りする」という新たな社会的使命をいただきました。
中小企業は産業構造の中で重要な役割を果たし、労働人口の70%を占め、その家族の生計も担います。様々な創意工夫も活発です。ただ大企業に比べて財務基盤が弱く、経営者に万が一の事があると大きな影響を受けます。後継者の選択肢が限られ、事業承継の際には独特の難しさも伴います。これらについてしっかりと支え、お手伝いするのが大同生命の役割なのです。
現在のコロナ禍は生命保険の真価が問われる局面です。中小企業の経営者は高齢化が進んでいます。自らの健康状態を考えて生命保険に入っておこうとする経営者も増えています。これまで生命保険の募集・加入は対面手続きが中心でしたが、感染防止の観点からリモートで済むように進めています。
会社単位の加入で多くの被保険者を1人ずつ医師が問診していたようなケースでも、スマホの活用で直接の接触をなくしました。コロナ対策の関係で海外の赴任先から帰国できない人も利用できます。デジタルトランスフォーメーション(DX)はお客様のグローバル化に対応する有効な手段です。一連の改革を「つながる手続き」と名付けました。

経営は「不易流行」で守るものと変えるものが併存します。連続テレビ小説「あさが来た」(NHK)でヒロインのモデルになった広岡浅子は大同生命創業者の1人で、社是を「加入者本位 堅実経営」と定めました。生命保険という仕事はお客様のリスクを引き受ける立場ですから、経営の絶対的な健全性を守り続けねばなりません。同じ加島屋の流れをくむ加島銀行は戦前の大恐慌で破綻しましたが大同生命は生き残り、来年に創業120周年を迎えます。
加入者と生命保険会社は30~40年の長いお付き合いをします。その中で時代の変化に合わせたチャレンジも必要です。生命保険会社は加入者の各種データから保険料などを算定する統計ビジネスの側面があります。例えばこのビッグデータを解析すれば新たな価値や新商品を創造できるのではないでしょうか。
中小企業にも「不易流行」があるはずです。世の中の変化に対し中小企業はどのようにチャレンジし、何を変え、何を残すべきなのか。読者の皆さん、たくさんのアイデアをお寄せ下さい。お待ちしています。
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大同生命保険の源流である豪商「加島屋」は1625年の創業とされ、江戸時代には多くの大名に資金を貸し付けました。小口融資先のひとつは新撰組。近藤勇と土方歳三が署名した借用証は大同生命が保管しています。明治維新後の廃藩置県で大名貸しの大半が焦げ付き、家業は傾きました。創業一族の広岡家に嫁いできた広岡浅子が才覚を発揮し、見事に立て直したのです。
世界初の小型ディーゼルエンジンを開発したヤンマーホールディングスの創業者、山岡孫吉を支えたメインバンクは加島銀行。浅子の娘婿で大同生命第2代社長の広岡恵三は孫吉に助言し草創期のヤンマーHDをサポートしました。中小企業・新興企業を支援するDNAを受け継ぐ大同生命が「第2の創業」で中小企業に的を絞ったのは必然ではなかったかとさえ思えます。
女性経営者の活躍、中小企業に特化した業態、同業他社に先駆けた株式会社転換など大同生命の歩みはイノベーティブな事柄であふれています。(編集委員 竹田忍)
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今回の課題は「中小企業の何をどう引き継ぐ?」です。400字以内にまとめた皆さんからの投稿を募集します。締め切りは6月15日(火)正午です。優れたアイデアをトップが選んで、28日(月)付の未来面や日経電子版の未来面サイト(https://www.nikkei.com/business/mirai/)で紹介します。投稿は日経電子版で受け付けます。電子版トップページ→ビジネス→未来面とたどり、今回の課題を選んでご応募ください。