どうしたら国産の食べ物を手に取りたくなる?
中家徹・全国農業協同組合中央会会長 経営者編第6回(11月1日)
農業は国民に対して食料を安定的に供給する役割を担っています。その役割をこれからもずっと担い続けることができるかというと、日本の先行きは非常にリスクが高まっています。そのことを、消費者の皆さんに知ってもらいたいと思います。

農林水産省の発表によると、2020年度の食料自給率(カロリーベース)は前年度と比べて1㌽低下し、37%になりました。過去最低の水準です。日本は食料の6割強を、輸入に依存しているのです。
これからも食料を海外から確実に輸入し続けることができるでしょうか。アメリカ、カナダなど海外の主要産地の天候不順と中国の需要増が重なり、政府が製粉業者などに売り渡す輸入小麦の価格が引き上げられました。影響は今後、家庭の食卓に広がっていく可能性があります。
一方で、日本の食料の生産基盤は年々、弱っています。農家の数も農地も減り続けています。食料を自給する力が低下しているのです。
ところが、こうした指摘に実感を持てない人が多いのではないでしょうか。日本は年間で数百万㌧の食品ロスが発生するほど、食べ物があふれているからです。そしてその背後でリスクが高まっていることを訴えるのは、JAグループの責務です。
JAの組合長をやっていたとき、都市部に住んでいる人を招いて交流イベントを開きました。農作業を体験すると、みんな「農家ってこんなに苦労してるんですね」と言ってくれました。必要なのは農業の実情を理解してもらうことです。
スーパーで弁当の価格を見ると、日本の食品がいかに安いかを感じます。こんな国が先進国でほかにあるでしょうか。高価な食品をもっと買ってほしいと言うつもりはありません 。でももう少し、国産の農畜産物を評価してほしいと思うのです。

そこで私たちは、次期3カ年の取り組みを決めるJA全国大会において「国消国産」を提起しています。「国民が必要とし消費する食料は、できるだけその国で生産する」という考え方です。そのためには、品質と効率を高める農家の努力が必要です。それを後押しするため、JAグループは売り先との契約による安定取引などに力を入れています。
SDGs(持続可能な開発目標)を受け、環境調和型の農業の実現も大会で提起しています。その一環として、畜産とコメ農家や野菜農家を結びつけ、家畜の排せつ物を堆肥にして活用するといった取り組みを進めています。こうした活動の積み重ねが、消費者の農業への理解にもつながると期待しています。
どうしたら消費者の皆さんは国産の食べ物を手にとってみたくなるでしょうか。そのために、農家やJA、企業、政府、そして消費者自身はどんな取り組みをすればいいのでしょうか。皆様のご意見をお寄せください。
編集委員から
新型コロナウイルスの影響による「巣ごもり消費」で、生産者と消費者をつなぐ産直サイトが脚光を浴びました。生産者しか知らない調理方法や栽培へのこだわりを伝えることで、農産物の付加価値が高まりました。スーパーでは見ることの少ない食品が家庭に届くようにもなりました。
産直サイトのサービスが消費者に受け入れられたのは、産地が遠い存在になったことの反映でもあります。生産者とじかに接する機会がほとんどなくなったため、農家の栽培の喜びや難しさをリアルに知ることが消費者にとって新鮮な体験になったのです。それは危機の裏返しでもあります。
問題は値段の安さばかりが優先されたりしないこうした購買行動を、いかにもっと広げるかです。そこで農協を含めた既存の流通が、果たすべき役割はたくさんあります。生産者と消費者の距離をいかに縮め、黄信号がともる生産基盤の実情を理解してもらうか。関係者のすべてが向き合うべき課題です。(編集委員 吉田忠則)
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今回の課題は「どうしたら国産の食べ物を手に取りたくなる?」です。400字程度にまとめた皆さんからの投稿を募集します。締め切りは11月9日(火)正午です。優れたアイデアをトップが選んで、22日(月)付の未来 面や日経電子版の未来面サイト(https://www.nikkei.com/business/mirai/)で紹介します。投稿は日経電子版で受け付けます。電子版トップページ→ビジネス→未来面とたどり、今回の課題を選んでご応募ください。