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インクジェット無駄省き精緻に

セイコーエプソン、「省・小・精」で地球に貢献

長野県諏訪湖周辺は国内屈指の産業集積地。信州の清浄な水や空気は時計やカメラなど地元の精密機械産業を育んだ。1942年に長野県諏訪市の宮坂伊兵衛・初代市長が諏訪を「東洋のスイス」と称したのはその象徴だ。SDGs(持続可能な開発目標)の追求はイメージ戦略ではなく、実体経済の成長に直結している。

セイコーエプソンは自らのものづくりを「省・小・精」と定義している。省エネルギー・省資源、小型軽量、高精度だ。小川恭範社長は「無駄を省いて精緻につくっていれば、事業を続けて多く活動するほど地球環境に貢献できる」と話す。「SDGsの精神に基づいて成果を出す会社は社会から信頼され、持続可能な会社になる」と考えた。

1980年代にアナログの製造業で日本は世界を制したが、その後のデジタル革命に乗り遅れて失速した。それに懲りたのか、現在進行中のデジタルトランスフォーメーション(DX)を積極的に導入してものづくりを変えようとする企業も多い。だがDXは手段で目的ではない。SDGsも同じで、何のために取り組むのかを先に固めるべきではないか。

時計を源流に持つ「省・小・精の技術」をSDGsで肉付けするのがエプソンのやり方。複写機やスキャナー、ファクシミリなどの機能を併せ持つオフィス向け複合機を、お家芸のインクジェット式で統一する。レーザープリンター式の販売は2026年で終える。インクジェットは構造がシンプルでレーザープリンターに比べて消費電力が少なく、部品点数も少ない。製品自体がSDGsに合致する。

布に図柄を描く捺染(なっせん)をインクジェットで置き換えると、必要箇所に必要量の染料だけを塗布できる。後工程で余分な染料を洗い流す手間がなく、用済みの版も捨てなくてよい。製造プロセスの工程が少なく環境負荷が小さい。

エプソンの子会社は「小さいものを小さくつくる」をコンセプトに横幅80センチ足らずの小型射出成型機を手掛ける。溶けた樹脂の押し出し方が独特で、小さいギアなどの製造時に、樹脂が通り道で固まった棒状のゴミ「ランナー」ができない。別の子会社が製造する金属粉末を3Dプリンターで打ち出せば金型なしで金属部品ができる。これらとロボットで製造ラインを組む構想を進めている。

原材料は極力再利用する。オフィスで出た古紙を新たな紙に再生する装置を応用し、中間材料で糖を作って微生物に食べさせ、バイオマスプラスチックを抽出する計画にも加わった。社会課題の解決が事業成長を生み、事業成長でより多くの社会課題を解決する。このサイクルの構築がエプソン式SDGsのゴールだ。

(編集委員 竹田忍)

セイコーエプソン・小川恭範社長 「諏訪湖を汚すな」こそ原点――


セイコーエプソン発祥の地は長野県の諏訪湖岸です。会社の原点である大和工業を興した山崎久夫さんは「絶対に諏訪湖を汚してはならない」という言葉を残しました。私たちは地域に受け入れられる企業を常に意識し、環境を守ると誓いました。「諏訪との約束」です。1987年、フロンの生産・消費を規制する「モントリオール議定書」が採択されると、まだ技術的めども立っていない88年に「93年度中のフロン全廃」を宣言しました。高いハードルをクリアし、93年に全世界で洗浄用特定フロン全廃を達成しました。世界初でした。
SDGsの浸透とともに「カーボンニュートラル」が世の中に定着しました。昨年改定した環境経営の指針「環境ビジョン2050」はさらに踏み込んで「2050年のカーボンマイナス」を宣言しました。二酸化炭素(CO2)の吸収・分離・固定で、事業活動におけるCO2削減量が排出量を上回れば環境負荷は減ります。例えばCO2分離膜開発に半導体の成膜技術が応用できるかもしれません。「地下資源消費ゼロ」もテーマです。原油、金属などの枯渇性資源を新たに消費しない循環型生産体制を構築します。
基幹技術のインクジェットは印刷に熱を使わないため、レーザープリンターよりも電力消費が少なく、構造はシンプルで交換部品が減らせます。20世紀に活躍したドイツの建築家ミース・ファン・デル・ローエは「レス・イズ・モア(少ないほうが豊か)」と唱えました。大きな物をたくさん作るのが豊かさだった時代は終わりました。プロセスの無駄を省けば地球のためにより大きな価値が生まれます。企業がSDGsに取り組むことには経済合理性があるのです。

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