/

西洋の窓口から鎮魂、憩いの場へ 神戸・東遊園地

時を刻む

神戸市役所南側の東遊園地。遊園地というよりも、約2.7ヘクタールの普通の公園だ。明治初期に外国人居留地の要請で開設されて野球やラグビーなどが日本に入る窓口となり、太平洋戦争中は防空演習や学徒出陣の壮行会が開かれた。阪神大震災ではヘリポートなどに使われ、「神戸ルミナリエ」や「1・17のつどい」が行われる慰霊の場でもある。神戸の歴史が詰まった東遊園地は今、さらに市民に身近な公園へ装いを変えつつある。

園内に点在するモニュメントが多彩な歴史を物語る。例えば「加納宗七像」。JR新神戸駅南側からJR三ノ宮駅、神戸市役所前を通るフラワーロードの場所にはかつて生田川が流れていた。その西側に開かれた居留地の洪水被害を防ぐため1871年、川を約800メートル東の現在地に移す工事を請け負ったのが宗七だ。

かつて西洋への窓

居留地の外国人は運動や散歩ができる公園開設を日本政府に強く要請し、旧生田川の河川敷に「内外人公園地」が4年後に開かれた。その後、居留地の東にある東遊園地と名付けられた。

野球やサッカー、陸上競技などに公園を使用した「神戸リガッタ・アンド・アスレチック倶楽部」の創設者の一人、アレキサンダー・キャメロン・シムの記念碑も園内にある。政府が土地を無償で貸し、自治機関の居留地会議が造成と維持管理を担った。名目上は「内外人共遊」だが、まだ外国人専用だった。

99年の条約改正で居留地が廃された際に管理は神戸市に移り、土曜は外国人、日曜は日本人、平日は共用になった。「運営に双方が委員を出して共生の努力をし、神戸や関西のスポーツ、レクリエーションの発展に貢献した」(洲脇一郎・神戸親和女子大学教授)

フラワーロード側には亀裂が入った歩道が残る。1995年1月17日の阪神大震災の傷痕を示す遺構だ。震災直後はヘリポートや仮設住宅の受付場所として復旧の拠点になった。同年12月には鎮魂と追悼、復興を祈念するルミナリエの会場となり、市民らの募金で「慰霊と復興のモニュメント」も2000年に設けられた。この地が選ばれたのは立地の良さと市民になじみ深い歴史ゆえだろう。

兵庫県加古川市の佐藤悦子さんは毎年、犠牲者を追悼する「1・17のつどい」に足を運ぶ。神戸市須磨区で被災した母の正子さん(当時64)は行方不明のまま。「骨も見つかっていないのでお墓を作れず、ここが手を合わせる場所になっている」といい、今年も花と手紙を捧(ささ)げた。

東日本大震災後は、つどいが東北の被災地に思いをはせる場にもなっている。

憩いの場増やす

146年の歴史を経て東遊園地は変化の時を迎えた。都心の三宮地区と神戸港のウオーターフロント地区で再整備が進むなか、その中間にある東遊園地に磨きをかけて回遊性を高める事業が動き出す。

「以前の東遊園地はイベント時以外は人が少なく、砂漠のような感じだった」。近くに住む村上豪英・村上工務店(神戸市)社長は語る。市と協力し芝生を敷いて屋外図書館や演奏会などでにぎわいを生み出す社会実験を15年に開始。一般社団法人を組織し、春と秋に手弁当で続けてきた。市もルミナリエなどで多くの人が踏んでも芝生を維持できる実験を繰り返した。

社会実験にはボランティアも加わり毎回盛況だった。成果をもとに市がまとめた基本計画では芝生広場など4つの広場を整備する。建築家の安藤忠雄氏が市に寄贈する図書館「こども本の森 神戸」は建設が始まり、22年春に開館する。

東遊園地の南側には「こうべ花時計」が移設され、その向こうでは「子ども本の森 神戸」の建設も進む

にぎわいを創り出す施設の整備・運営は民間事業者を公募し、村上工務店や一般社団法人など3者の共同事業体が受注した。カフェや屋外図書館のほか、セミナーや料理教室などに使える貸しスペースを設け、市民や企業が東遊園地に目を向けるきっかけをつくる。「居留地に住む外国人が育てた公園が、今また市民参加で新しくなる。自然や文化に富んだ神戸の生活を実感できる空間にしたい」と、村上氏は意気込む。

公園開設当時に関わったシムは19世紀の濃尾地震や三陸津波の際、義援金を集めて支援したという。洲脇教授は「東遊園地が鎮魂の場になったのは歴史の不思議に思える。今後も鎮魂と多文化共生を引き継ぐ空間であってほしい」と語る。

(編集委員 宮内禎一)

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン