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たまる消費の反発力 貯蓄率、日米欧で最高水準

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ワクチン接種の進展で新型コロナウイルスの感染が収束傾向になれば、消費が一気に拡大するとの見方が強まっている。コロナ禍での厳しい行動制限を受けた消費の手控えで、主要国では家計貯蓄率が急上昇した。制限緩和と消費の関係をみると強い連動性がある。ワクチン接種の状況は国によりバラツキがあり、なお不透明感が強いが、需要が一気に増えることで一時的なインフレ懸念も出てきそうだ。

経済協力開発機構(OECD)の加盟37カ国を対象に、英オックスフォード大が算出する行動制限の厳格度指数と実質民間最終消費支出(個人消費)の関係を調べると、制限の緩和度合いが大きいほど消費の急回復につながることが分かった。厳格度指数は移動やイベントの制限など9つの指標をもとに厳格度をゼロから100の間で指数化している。

経済の正常化に向けて参考になるのが、2020年7~9月期の動きだ。4~6月期の厳しい都市封鎖(ロックダウン)からの経済再開を受けて、個人消費はOECD平均で11%増、制限の厳しかった英国は19%増となった。制限の緩かった日本は欧米に比べ反発力を欠いた。10~12月期は感染再拡大で世界的に消費が足踏みしたが、ワクチンの接種で先行するイスラエルや英国などでは段階的な制限解除が視野に入ってきた。

消費回復を後押しするのがコロナ禍で大幅に増えた家計貯蓄だ。行動制限や財政支援で日米欧などの貯蓄率(可処分所得に占める貯蓄の割合)は過去最高水準に上昇。米国では20年4~6月期に約30%と過去平均の2倍強に達した。バイデン政権の公約の1人1400ドル(約14万8千円)の追加給付があれば家計貯蓄は一段と増える。英調査会社オックスフォード・エコノミクスのオリバー・ラカウ氏は「経済回復による収入増よりも貯蓄からの支出が消費回復に寄与する」と分析する。

欧州でも移動制限の緩和を見越した動きが広がる。「鬱積してきた膨大なエネルギーがバネのように解き放たれる」。英イングランド銀行(中央銀行)のハルデーン理事は制限解除後の回復に期待を寄せる。米旅行データ分析会社アダラの航空券予約データによると、欧州では3カ月以上先のレジャー目的の予約数が増加しつつある。

ワクチン接種前から感染抑止で成果を上げていた一部の国では、消費意欲に火が付き始めた。シンガポール大手飲食店予約サイト、チョープのジャン・ウィー氏は「海外旅行ができないことが消費者を外食に駆り立たせている」と指摘。1月の飲食店の予約件数は前年同月比37%増えた。高級すし店は「予約が取れるのは9月中旬以降」という。

感染拡大で犠牲を払った多くの国では、ワクチン接種のペースがカギを握る。世界で最も接種が進むイスラエルでは人口の3割がすでに必要な2回の接種を終えた。現在のペースが続けば今春に人口の7割以上がウイルスに免疫を持つ「集団免疫」に達する。集団免疫に近づけばウイルスが伝染しづらく、制限を解除しやすくなる。米国は今秋にも集団免疫に達する見通し。一方、接種開始が遅れた日本やワクチンの不足に悩む欧州連合(EU)では正常化が後にずれるおそれがある。

これまで家計は消費を大幅に抑制し、ペントアップ(先送り)需要が高まっている。米国では4~6月期以降、個人消費の増加率が年率10%を超すとの予想も多く、消費急回復で短期的に物価上昇圧力が高まる懸念がある。景気が本格回復する前に金融緩和の縮小観測が広がれば金融政策運営は一段と難しくなる。

(西野杏菜、ロンドン=篠崎健太、ニューヨーク=後藤達也、シンガポール=中野貴司)

家計貯蓄率 上昇は高所得世帯に偏り


一定の期間に家計が得た可処分所得のうち、消費支出に回らずに手元に残った貯蓄の割合を示す。日本では内閣府が国内総生産(GDP)統計の雇用者報酬などのデータをもとに四半期ごとに推計している。所得以上に消費すれば、貯蓄率がマイナスになることもある。
2020年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で主要国を中心に貯蓄率が大きく上昇した。外出禁止などの行動制限で消費が抑制されたことに加え、世界各国が景気対策のために一時給付金を実施したためだ。日米とユーロ圏の合計では、現預金総額(M2)が20年12月までの1年間におよそ8兆ドル(約840兆円)増えた。ワクチンの普及や行動制限解除で、21年は膨らんだ貯蓄の取り崩しが消費を押し上げる見通しだ。
足元の貯蓄率の上昇は一様ではなく、高所得世帯に偏っている。低所得世帯では現金給付などが生活の下支えになっているものの、コロナ禍の雇用環境の悪化などで所得環境は厳しい。経済正常化後の消費回復に格差が生じる可能性がある。

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