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企業の自社株買いが急増 個人投資家にとっての利点は?

今年に入って自社株買いを発表する企業が急増している。過去最高を更新するとの観測も浮上。自社株買いが実施されると、株価が下げ止まったり、上昇したりする傾向がある。その点に着目して有望株を探す個人投資家もいる。自社株買いの急増で個人投資家にどんなチャンスが広がっているのか。動向を探った。

自社株買いは文字通り、上場企業が自社の株式を自己資金で買い戻すことを指す。その結果、市場に出回る株式数が減少するので、当期純利益を株式数で割って求める1株当たり利益(EPS)が増加する。株主にとっては企業からの利益の配分が増えることになる。このため自社株買いは、配当と同様に企業の株主還元策の一つと位置付けられている。

今年に入って、自社株買いを発表する企業が急増している。QUICKによると、4月26日時点で自社株買いの実施を発表した企業は480社。既に昨年(743社)の6割超に達している。背景にあるのは業績の回復だ。国内主要企業の21年度の業績は、過去最高益を更新する見通し。積み上がった手元資金の一部を使って、株主還元強化の一環として自社株買いを実施する企業が増えている格好だ。

東海東京フィナンシャル・グループの情報シンクタンク、東海東京調査センターの集計によると、上場企業が昨年度に設定した自社株の買い入れ枠は8兆1247億円に上り、年度ベースで過去最高となった。同センターの仙石誠シニアエクイティマーケットアナリストは「今年度も昨年度並みまで膨らみ、過去最高水準を維持する可能性がある」との見方を示す。

1年のうち自社株買いの発表が最も多いのは、4月後半から5月にかけて。3月期決算の企業が本決算発表のタイミングに合わせて公表するケースが多いからだ。仙石氏は、上場企業が今年4~5月に設定する自社株買い枠の合計は2兆円規模と試算する。

「例年この時期は、本決算と同時に発表する今期業績予想の数字が高い企業の株が選好される。だが今年は、自社株買いなどで株主還元を強化する企業の株が物色される可能性がある」と仙石氏は指摘する。

今年に限って業績予想の高い企業の株が敬遠されるのは、ロシアのウクライナ侵攻や円安の進行で原材料や輸入品の価格高騰に拍車がかかり、景気の先行きにも不透明感が増しているからだ。そのため、業績予想の未達を懸念して嫌気されるという見立てだ。

こうした情勢に加えて、もともと自社株買いを実施する企業の株には、投資家の買いが集まって株価が上昇する傾向がある。理由の一つは、自社株買いに株価を下支えする効果があることだ。企業は自社の株価が下がったときに自社株買いを実施することが多い。企業がまとまった量の自社株を買い入れるため、株価が下げ止まりやすい。そうした連想から、自社株買いの発表だけで株価が上昇するケースもある。

例えば今年3月に年度ベースで3回目となる異例の自社株買いを発表したトヨタ自動車。買い入れ枠の上限は1000億円。それを受けてトヨタの株価は上昇した。同社は自社株買いの実施理由を「株価の水準などを勘案した結果」と説明。株価が割安になった局面で同社が自社株買いに動き、株価を下支えするとの観測が広がり、買いが集まった。

「企業が自社株買いに動くということは、経営陣が足元の株価を割安と考えていることと同義だ。株主はその銘柄を一層安心して保有できる」。1億円を超える資産をバリュー(割安)株投資で運用する関西在住の個人投資家、子供部屋おじさん(ハンドルネーム)はこう話す。

PERの低下やROEの改善で株価上昇も

さらに自社株買いには、投資家が銘柄選びで重視するPER(株価収益率)を引き下げたり、自己資本利益率(ROE)を高めたりする効果もある。前者のPERが低下する仕組みは次のようなものだ。

冒頭で記したように、企業が自社株買いを実施すると、市場に出回る株式数が減少し、EPSが増加する。その結果、株価をEPSで割って求めるPER(株価収益率)は低下する。それを受けて「割安になった」と判断した投資家の買いが集まって、株価が上昇することも期待できる。

また自社株買いでは自己資金で株式を買い戻すため、買い付け後には自己資本が減少する。ROEは当期純利益を自己資本で割って求めるため、分母の自己資本が小さくなるから、ROEは上昇する。ROEが高いと、効率よく利益を上げているとの評価が高まる。その点に着目した投資家の購入で、株価が上昇することも見込める。

自社株買いの実施で先行している米国でも、実施件数は増加している。米指数大手S&Pダウ・ジョーンズ・インディシーズによると、S&P500種株価指数の構成銘柄が21年に実施した自社株買いの総額は過去最高を記録した。22年にはそれを上回り、1兆ドル(約130兆円)に達するとの試算もある。

約6億円を運用する米国株投資ブロガーのたぱぞうさん(ハンドルネーム)は、配当金は受け取るたびに所得税などの税金が発生する一方で、自社株買いでは課税分が差し引かれることなく株を買い戻す点に着目。「自社株買いは株式の根源的な価値向上につながる」と話す。米国では、キャッシュフローが潤沢で、業績が堅調な成熟企業は自社株買いをほとんど毎年実施している。それが、米国の株式市場に投資マネーが集中する大きな要因の一つになっている。

低PBRの優良銘柄に注目

国内で22年3月期決算の発表が本格化する中、自社株買いの発表を期待できる銘柄はどれなのか。子供部屋おじさんは最近、自社株買いを発表しそうな銘柄として東洋製缶グループホールディングスを購入したと明かす。25年度を最終年度とする中期経営計画で自社株買いの機動的な実施などを掲げており、「足元の株価は自社株買いを織り込んでいない」と分析した。

「財務と業績が安定しているにもかかわらず、PBR(株価純資産倍率)の低い銘柄で、自社株買いなどで株主還元を強化する例が増えている」と子供部屋おじさんは語る。株主還元の強化を打ち出す可能性に期待して、決算発表で新たな中期経営計画の公表を予定する低PBR銘柄をチェックしている。

自社株買いの発表が相次ぐ中、有望銘柄を発掘する足がかりの一つとしても、その重要性は増していきそうだ。

(井沢ひとみ)

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