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存在感増す20代投資家 「手数料ゼロ」が若者を呼ぶ?

ネット証券「25歳以下の株の売買手数料無料」の狙いは

インターネット証券が若年層の囲い込みを急いでいる。SBI証券が4月に打ち出した「25歳以下を対象とした国内の現物株売買手数料の無料化」は、松井証券、岡三オンライン証券にも波及した。コロナショック後のネット証券の口座開設数(大手5社の合計)をみると、20代以下の若年層の存在感が際立つ。現物株の手数料無料化は若い世代の投資への関心を高める起爆剤となると同時に、証券各社にとって中長期の収益拡大のカギとなりそうだ。

口座開設をためらう若者の背中押す

「とりあえず口座開設してみようと思った」。東京都在住の25歳の会社員女性はネット証券での株取引に前向きだ。これまで投資に興味はあったものの、なかなか一歩を踏み出す勇気が出なかったという。無料化の施策に背中を押され、手続きを進めることを考えており、「25歳の時点で気づけてよかった」と笑顔だ。

25歳以下の現物株式の売買無料化に取り組むネット証券は、SBI証券、松井証券、岡三オンライン証券の3社(5月末時点)。無料化前後で預かり資産や売買代金には大きな変化は見られないものの、新規口座開設数の増加が目立つという。

4月20日から25歳以下の国内現物株の売買手数料を実質無料(未成年は上限あり)としたSBI証券は「25歳以下の口座開設数は平常時の1.5倍程度のペースで増えており、1日平均の稼働口座数は無料化前から10%以上増加した」と話す。口座開設後のアンケートでは20~25歳のおよそ半数が「手数料無料が口座申し込みのきっかけとなった」などと回答しているという。

5月6日に現物株と信用取引の売買手数料無料化を開始した松井証券は5月、25歳以下の新規口座開設数(1日平均、5月18日時点)が前月と比較し30%増加。「若年層の資産形成の施策を今後も検討したい」(松井証券)とする。

同じ日に現物株の売買手数料無料化を始めた岡三オンライン証券は「未成年の子どもを持つ親世代からの問い合わせや、これから投資を始めようとする若年層からの問い合わせが増えている」として、「25歳以下の口座開設数が拡大する手応えを感じている」という。

資産形成層を狙い顧客開拓を図る

こうした動きは広がるのか。楽天証券、マネックス証券、auカブコム証券は取材に対し、25歳以下の株式売買無料化について「決定した施策はない」(いずれも5月下旬時点)とするが、若年層の顧客開拓はネット証券各社共通の課題だ。日常的にネットを利用して情報収集する若年層は、営業担当がつく対面証券ではなく、手数料が少しでも割安なネット証券に資金を振り向ける傾向が強く親和性が高い。これから中長期の資産形成を本格的にスタートする人が多い点でも、若年層は魅力的なターゲットといえる。

実際、対面証券では顧客の高齢化が課題となっている。高齢層を主要顧客にもつ野村証券は、3月末時点の残高ありの顧客口座が532万9000件。1年前と比較した増加数はわずか1万件だ。一方、口座数を大きく伸ばしている楽天証券の口座数は同時期で162万件増えた(残高なし口座を含む)。単純比較はできないが、口座数の伸びには大きな差がある。

手数料引き下げ競争が激化

ネット証券各社が若年層を中心とした新規顧客獲得に力を入れる背景には、厳しさを増す収益環境もある。株や投資信託の売買手数料の値下げ競争が続く中、各社が期待をかける収益源のひとつが信用取引の金利収入だ。

信用取引は証券会社からお金を借りて株を買うため、たとえば新規の買い建てから入る場合、建玉(取引約定後に反対売買されないまま残っている未決済分)の約定金額に対して金利が発生する。証券各社によって異なるが、年率で2~4%かかる。管理費などの諸経費も加わるため、銘柄数や保有期間によってはまとまった金額になる。

東京証券取引所が5月27日に発表した投資部門別売買動向によると、委託売買代金に占める個人比率は今年に入り、平均25%と、過去5年平均から4ポイント増加。個人の存在感は高まっている。

「現物株の売買手数料は各社ほぼ横並びなので、差が出る信用取引の金利部分を比較してメインの取引証券を決めた」。そう話すのは都内に住む40代の個人投資家の男性。最初は金利で証券会社を選んだが、今後証券各社が金利を引き下げる施策をとっても、安いところに乗り換えるつもりはないという。理由は、「すでに運用している投資資金を他の金融機関に移すのは手続きが面倒だから」。信用取引は顧客と証券会社の間の契約(約諾書)の下で実施するため、一般に建玉の移管ができない。現物株の移管には手数料が発生する場合がある。

雨宮総研の雨宮京子代表は「一部ネット証券による若年層の現物株の取引無料化には、新規口座開設者の一定割合が信用取引を手掛けるようになれば、金利収入が長期にわたり期待できるとの思惑も見え隠れする」と指摘する。

「ロビンフッダー化」せず長期の資産形成を

現物株の売買手数料無料化をきっかけに資産運用に関心を持つ若者が増えると見る向きがある一方で、「ネット証券の手数料はすでに十分安く、無料化しても、米国で(ゲーム感覚で取引する)ロビンフッダーに見られるような投機的な短期売買を促進するだけだ」(資産運用アドバイザーの尾藤峰男氏)との見方もある。

日本銀行が事務局を務める金融広報中央委員会の調査によると、2020年の金融資産保有額の平均値(金融資産非保有世帯を含む、2人以上世帯)は20代が292万円と70代以上(1786万円)のおよそ6分の1。金融資産が相対的に少ない若年層だが、少子高齢化が進み年金財政が厳しさを増す中、主体的な資産形成の重要度は増している。「SBI証券や楽天証券が手掛ける一部の米国株ETF(上場投資信託)などの買い付け手数料無料化は、年齢に関係なく利用し続けることができる。長期投資に向いており、若年層にもメリットが大きいのではないか」と尾藤氏は話す。

(井沢ひとみ)

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