最も多くの岩をめくる ティリングハストの有望株選定法
株式投資のレジェンドに学ぶ必勝テク(6)

編集部 みきまるさんに株式界のレジェンドの必勝テクニックを解説していただく人気連載。前回は、米資産運用大手フィデリティで活躍する現役のポートフォリオマネジャー、ジョエル・ティリングハストが登場しました。
ティリングハストは「フィデリティ・ロープライスド・ストック・ファンド(FLPSX)」など、中小型株に特化した複数のファンド(投資信託)を運用。日本株も多く組み入れています。みきまるさんは、彼が日本株市場で買っている銘柄を常に徹底的に分析しているそうですね。自身の投資スタイルと照らし合わせて納得できる保有理由があれば、参考にしているというお話が印象的でした。
みきまる ティリングハストがすごいのは、運用者の腕が問われるアクティブ型投信で、長年にわたりベンチマークの株価指数を上回る成績を上げ続けたことです。しかも「現役」のファンドマネジャーであるからこそ、私たちは彼が投資している銘柄を目にすることができるんです。
例えば、食肉小売りチェーンのオーエムツーネットワーク。私の保有銘柄の一つですが、ティリングハストが投信に組み入れていることが購入の後押しとなりました。主力は食肉などの小売りですが、「アウトバックステーキハウス」などの外食店舗がにぎわっていて、「外食優待株」と捉えると株価指標面で破格に安い。いずれ親会社の食肉準大手エスフーズによるTOB(株式公開買い付け)もあり得るのではとの期待もあります。
ティリングハストの銘柄選び
編集部 みきまるさんから見て、ティリングハストが一般の投資家と違う点は何だと思いますか。
みきまる 忍耐強さです。ティリングハストの手法は「極めてオーソドックスなバリュー(割安)株投資」で、平凡でありきたりなもの。しかし、忍耐力や謙虚さ、常に学ぶ姿勢があれば、投資家として大成することは可能だと示してくれました。
彼はFLPSXだけで800超の銘柄を組み入れています(2022年9月末時点)。そして保有銘柄のすべての事業内容や業績、株価水準について詳しく語ることができます。私は今、740銘柄ほど保有していますが、ティリングハストに倣って、すべての銘柄について徹底的に語れるよう努めています。
「テンバガー(10倍株)の教祖」と呼ばれ、ティリングハストが師事したピーター・リンチ。リンチは愛弟子ティリングハストの著書『ティリングハストの株式投資の原則』の序文の中で、次の言葉を寄せています。
「10の銘柄のうち、投資に値するのは1つだけだと私は常々述べてきた。20の銘柄であれば2つ、100銘柄であれば10という具合である。最も多くの岩をひっくり返した人物が勝つのである。(中略)ティリングハストは、最も多くの岩をひっくり返しているばかりでなく、彼は偉大なる地質学者でもあるのだ」
ティリングハストは常に膨大な数の岩(銘柄)をひっくり返して、裏側に宝石が隠れていないか探しているんですね。そして、私の優待バリュー株投資の方針とも言える「優待株いけす理論」は、リンチとティリングハストの哲学に影響されて生まれたものでもあります。多くの銘柄を購入し、「いけす」に入れた養殖魚のように飼う。それらを比較・観察し続けることによって、総合的な戦闘力がずばぬけた生きのいい魚を主力株に昇格させる、というものです。
編集部 みきまるさんがたくさんの銘柄を保有しながら、その都度、主力株を入れ替えていく方法や理由が分かりました。
みきまる 私からすると、銘柄を1つだけ持って「全張り」して負けるのは投資とは言えません。あと、インデックス投資家のインフルエンサーがSNS(交流サイト)で、「個別株投資では勝てないからインデックス運用をしましょう」と勧めているのを目にします。努力しても勝てない、と断言するのはかなりの問題ではないでしょうか。
ティリングハストの投資成績から、長期で見てインデックス型投信に打ち勝つアクティブ型投信は、現実にきちんと存在するという事実が示されました。多くの場合、個別株投資で結果が出るのは長い時間がたった後。少しばかり評価益が出たからといってすぐに売却せず、忍耐強く、回転率を極力低く保つことが求められます。売買手数料や税金を考慮に入れると、私も一度「いけす」に入れた銘柄は、よほどのことがない限り売却することはありません。
編集部 みきまるさんは不人気業種も進んで購入しています。それも長期運用を考慮してのことですか。
みきまる はい。私はテレビ局の株などを大量に保有していますが、「忍耐」という観点では、売られ過ぎた不人気業種を購入した方が長い目で見てうまくいくんです。当たり前のことですが、投資は人と同じことをしていたら勝てません。そういう意味で、優れた投資家というのは社会性がなく変人、おかしな人が多いと思います。ちなみに私は普通ですよ(笑)。
専門分野を持つ
編集部 ティリングハストの銘柄の選び方で、みきまるさんが参考にしている点はありますか。
みきまる ティリングハストは著書で「十分に理解していない領域は避けたい」と述べています。そして、コンピタンス領域(自分が賢明な判断ができる分野)に集中投資すべきだとしています。私も参考にしている点です。
編集部 みきまるさんのコンピタンス領域は小売業ですか。
みきまる はい。私は実際の店舗を注意深く観察して、これから伸びそうな銘柄を発見するのが得意だと自己分析しています。1990年代に米国で上昇した株のランキング上位10社に、小売り業種が多く含まれていました。ありふれた小売業からでも10倍株は生まれています。店舗に行けば顧客の入り具合も確認できるので、個人投資家にとって分かりやすいと思います。自分の「専門分野」と「広い視野」をバランスよく持つことが重要です。
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP(2023/1/20)
価格 : 800円(税込み)
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