危うい「米大統領就任100日で接種1億回」の公約
大統領就任式当日、祝賀行事の進行とともに米株価指数も上昇を続け、最高値更新。絵に描いたようなハネムーン相場初日であった。
超党派で新大統領歓迎セレモニーがアクシデントもなく進行した。
とはいえ、ウォール街にはバツイチ(あるいはバツ2以上)が少なくない。ハネムーンと言っても素直に受け入れられない市場参加者も目立つ。そこで「蜜月期間が、いつまで続くか」が話題になる。
結論から言うと、バイデン新大統領の「就任100日でワクチン接種1億回」の「公約」実現が危うい。
郡の保健機関が突如コロナワクチン接種の地域司令塔に指定され、「青天の霹靂(へきれき)」のごとく当惑して動けない。ニューヨーク市では接種のアポは入れたが、ワクチン供給が足りない事態も発生。医療専門家の多くが、バイデン氏の公約は「オーバー・プロミス」、日本風に言えば「大風呂敷」だと匙(さじ)を投げる。
広大な領土を連邦政府と州が共同統治する合衆国の「結束」が厳しく試されている。バイデン新大統領の支持率推移が市場の注目点になりそうだ。既に就任時から歴代大統領の中ではかなり低位の支持率となっている。
イエレン次期財務長官はじめ、閣僚の議会承認が大幅に遅れていることも気になるところだ。
そのイエレン氏も米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長も、経済政策における「ワクチン」の重要性を繰り返し語っている。
市場内では、ワクチン接種が遅れれば、FRB追加緩和も、との期待感まで語られるが、本当にそこまで「いいとこ取り」が通るものなのか。
今回のハネムーン相場は、ワクチン相場との共存が前提条件という前例のない展開なのだ。
さらに、市場内には、ワクチン接種が遅れると、中国のワクチン外交が勢いづき、バイデン政権の対中国政策も過激化するリスクが指摘される。中国たたきは、そもそも民主党のお家芸であった。
中国側はほくそ笑んでいるかもしれない。米国新政権はいまだ主要閣僚の承認でもたつき実質的に空洞化状態だ。前政権との引き継ぎもおぼつかない。
救いは、中国経済に続き、米国経済も企業決算を見る限り、一定の経済成長回復が見込まれることか。米中共倒れのごときリスクは低い。
かくして、ロケットスタートを切った蜜月相場の賞味期限が注目されている。

豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
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