IPO株投資のイロハ 昨年の反動で勝機が拡大
10倍株を狙え 大化け銘柄の発掘術(5)

「3月27日のカバーの上場を心待ちにしている」
東京都に住む男性投資家は、Vチューバー(バーチャルユーチューバー)のマネジメントを手掛ける同社株の購入抽選に参加する予定だ。テーマ性があり、成長期待が高いと判断したためだ。
この3月はカバーをはじめ、昨年同月(8社)を上回る15社が東京証券取引所に上場する。住信SBIネット銀行は当初、昨年3月に上場する予定だったが、ロシアによるウクライナ侵攻の影響を受けて上場を延期していた。
昨年は米国で利上げが進んだことを受けて、割高感が高まったグロース(成長)株が多い新興企業株が嫌気され、IPO株の物色も低調だった。その反動で、これからIPOで上場する銘柄や昨年に上場してさほど値上がりしなかった有望株を物色する動きが盛んになっている。ここでは、IPO株投資の基本をおさらいしよう。
IPOは英語の「イニシャル・パブリック・オファリング」の頭文字を取った言葉で、新規株式公開とも呼ばれる。未公開企業が自社の株式を新たに証券取引所に上場し、投資家が自由に売買できるようにすることを指す。上場した企業は資金調達の裾野が広がるほか、知名度や社会的信用度が向上し、人材確保がしやすくなるといった効果が期待される。
上場の手法には、創業者などの既存株主が保有株を放出する「売り出し」と、株式を新たに発行する「公募」の2つがある。初値(上場後に最初に売買が成立した株価)が公募・売り出し価格(公開価格)を上回ることが多く、人気が高い。初値が高くなる背景には、IPO株数に上限があり、購入を逃した投資家の買いが集まるという需給要因などが挙げられる。
IPO株は通常の株と購入方法が大きく異なる。ここでは証券取引所が上場を承認してからのステップを見ていこう。
IPO株の購入ステップ

まず、上場手続きの中心を担う主幹事の証券会社が「想定価格」を算定する。企業の業績や将来性、類似企業の株価指標などを参考に計算して、証券取引所の上場承認と同タイミングで価格を公表。その後、機関投資家などの意見を基に仮条件を決定する。
実際に投資家に売り出される時の公開価格は、需要とマーケット動向に即して決められる。投資家はブックビルディング(需要申告)の期間内に希望を通達。どの程度の申し込みがあり、いくらで買うのかといった需要を積み上げながら、価格が決まる。もっとも、銘柄によっては高倍率となることもあり、購入希望が必ずしも通るとは限らない。

IPOの際、引き受けや販売などを行う「幹事」の証券会社は複数社設定されている。公開までの各種事務手続きや審査、株価設定、株式上場後の資金調達の助言や指導なども担う主幹事会社は引受数量が多いが、それゆえ申し込みの総数も増加しやすい。倍率は銘柄や幹事会社ごとに異なるので、注意したい。
また配分方法も複数の方式が存在する。野村証券や大和証券などの対面証券では、主に「店頭配分」が採用されている。証券会社の裁量でIPO株を投資家に振り分ける方式で、支店の規模などによっても配分できる株数は異なってくる。取引の多い大口顧客が優位になったり、顧客との関係構築のためにIPO株の配分が使われたりすることもある。
一方、インターネット証券や対面証券のオンラインサービスでは抽選の利用が可能だ。抽選には料金はかからず、機械的に割り当てられるので公平性が高い。

そのほか、取引実績や資産によって当選確率がアップする優遇抽選を、証券会社が独自に実施している場合がある。例えばSMBC日興証券のオンライン取引「ダイレクトコース」では、預かり資産などに応じて当選確率が変動する。また、SBI証券では抽選・配分に外れた回数に応じて「IPOチャレンジポイント」が加算され、次回以降の申込時にポイントを使用することでIPO株に当選しやすくなる。
関連サイトの情報を参考に
IPO株投資のメリットは、業績の拡大が見込まれる企業の株式を上場段階で発掘し、値上がり益を狙えること。また、購入時の手数料がかからない点も魅力の一つとして挙げられる。
ウェブサイト「やさしい株のはじめ方」などを運営する40代の兼業投資家、竹内弘樹さん。純利益が年10%以上増加する「中程度の成長株」で割安な銘柄に集中投資して、億円単位の資産を築いたこのスゴ腕投資家は「抽選は当たらないことが普通という気持ちでどんどん申し込んでいくといい」と語る。銘柄を選ぶポイントとして、成長性や話題性、公募株数の多さ、新規性、IPO市場の地合いを挙げる。
もっとも申し込みに際しては、「IPO株の情報を詳しく紹介しているサイトなども見て、しっかり勉強してから挑んでほしい」と個人投資家向けの「湘南投資勉強会」を主宰するkenmoさん(ハンドルネーム)は話す。企業分析を得意とする名古屋の長期投資家さん(同)は上場スケジュールや初値予想などが掲載されている「96ut.com」のサイトを例に挙げている。
投資家が注目するのはIPOでこれから上場する銘柄だけではない。上場したばかりの銘柄の物色も盛んだ。一般に注目銘柄の上場直前は、同業他社や直近上場した銘柄に見直し買いが入りやすい。例えば、カバーが東証の上場承認を発表した2月の翌営業日には、同業のANYCOLOR(エニーカラー)の株価が急伸する場面があった。
また、例年12月のIPOラッシュでは、上場が同じ日に重なるケースが多く見られる。投資資金が分散されるため、「業績が良いにもかかわらず初値で高騰しなかった銘柄や新規性や稼ぐ力のある銘柄は、一定期間がたった後に資金が集まりやすい」との声がある。竹内弘樹さんは「投資の物差しをしっかり持ち、短期投資家が売り抜けて割安に放置された有望株を狙いたい」とアドバイスする。
3月20日に発売した日経マネーの2023年5月号の巻頭特集「2つ取れれば資産1億円も! 特選10倍株」では、上場して日が浅い銘柄を対象としたセカンダリー株投資では、注目されている銘柄を探った。こちらも参照してほしい。
(井沢ひとみ)
[日経マネー2023年5月号の記事を再構成]
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP(2023/3/20)
価格 : 800円(税込み)
この書籍を購入する(ヘルプ): Amazon.co.jp 楽天ブックス
資産形成に役立つ情報を届ける月刊誌『日経マネー』との連動企画。株式投資をはじめとした資産運用、マネープランの立て方、新しい金融サービスやお得情報まで、今すぐ役立つ旬のマネー情報を掲載します。
関連企業・業界