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「びっくり予想」で占う2021年 コロナ後を見極める

マネーの世界 教えて高井さん

2020年は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)が世界を揺るがした。アジア発の感染症がもたらしたリーマン・ショック級の危機は、ほぼ完全な「想定外」のサプライズだった。新型コロナに揺れた20年に続く21年は、どんな「びっくり」があり得るのか――。市場関係者に大胆予想を聞いた。

21年の金融市場のメーンシナリオは「危機下の株高」だろう。

新型コロナのショックを受けて、各国の政府・中央銀行は大規模な対応策を打ち出した。世界で感染拡大が続くなか、政策のサポートはなお続くとの見方が市場では優勢だ。レオス・キャピタルワークスの三宅一弘経済調査室長は21年の主要国の株式市場について「過剰な金融緩和のなかで企業業績も回復し、懐疑を残しつつも強気相場が続く」と読む。

足元の株高はこうしたシナリオを織り込んでいる。裏返せば、株式市場は「想定外」への脆弱さを抱えている。コムジェスト・アセットマネジメントのリチャード・ケイ氏は「びっくり予想」として、「ワクチンが普及しても感染が抑制できない」を挙げる。感染拡大を食い止められないと、社会活動の正常化を先取りする株式相場の「ワクチン・ラリー」は肩すかしを食らいかねない。

ワクチンや治療薬を巡っては「裏読み」もある。

岡三証券の高田創氏やケイ・アセットの平野憲一氏は、治療薬の登場による新型コロナ危機の収束は、株価急落の引き金になりかねないと想定する。危機対応の財政・金融両面の緩和策の不要論が想定よりも前倒しで始まると、金利上昇と株価の頭打ちが同居する「好況期の株安」を招きかねないという筋書きだ。

新型コロナのパンデミックがどちらに転んでも株式相場の波乱につながりかねないという予想が同居しているのは、それだけ今の株高の評価が割れているのを映している。感染収束後の経済の正常化を先取りする側面と、危機対応の政策頼みの側面。どちらにより強く光を当てるかで、「想定外」のショックの出方が変わってくる。

コロナ下で加速した市場の構造変化が「びっくり」の下地になると見る向きもある。世界的なESG(環境・社会・企業統治)投資の潮流のなか、日本でもESGファンドへの資金流入が増えた。ヒトやモノの流れが滞るなか、IT(情報技術)関連株に資金集中が進んだのも大きな変化だった。

マーケット・リスク・アドバイザリーの新村直弘代表は「拙速ともいえる脱炭素の動きが、資源国に成長鈍化や政情不安をもたらし、波乱の火種になりかねない」と危惧する。脱化石燃料の流れは強まるばかりだが、身軽なマネーとは違い、国や企業の方向転換は容易ではない。投資マネーの引き揚げが打撃になれば、「産油国の多い北アフリカや中東地域の紛争リスクが高まる」(新村氏)。

コムジェストのリチャード・ケイ氏も「米国の政権交代で中東のパワーバランスが変化し、原油の供給不安が起こる」ことをびっくり予想に挙げる。新型コロナの影響で世界的な物価低迷が懸念されるなかで、供給サイドからインフレ圧力が高まるリスクが潜んでいる。

東京海上アセットマネジメントの平山賢一氏は、経済のデータ化の流れで想定外の変化が起きる素地ができつつあると見る。「お金やモノの希少性が低下し、データが価値の源泉になる」と指摘し、国家がデータエコノミーの主導権を握るために「IT人材の流出を阻止する規制の導入や、巨大IT企業の分割論などが加速する」というサプライズを挙げる。

(増田由貴)

「黒い白鳥」への想像力 有事に備え


市場関係者と会話していると、メーンシナリオとリスクシナリオという言い回しをよく耳にする。この枠組みを当てはめれば、「びっくり予想」はリスクシナリオの「さらに外側」にあるリスクと位置づけられるだろう。
リスクシナリオを想定しておくのは重要だ。運用方針の決定だけでなく、リスクが顕在化した時、心の備えがあれば拙速な投資判断でダメージを広げずに済む。
では、奇想天外な、時には荒唐無稽にさえ思える「びっくり予想」の役割は何だろうか。ひとつは「世の中にはあり得ないと思うことでも起こりうる」と考える機会を持てることだ。特にダウンサイドリスク、株価などが急落する事態のシミュレーションに役立つ。
この発想は今の私たちの胸にすっと入ってくるだろう。2020年は新型コロナウイルスのパンデミックという、絵に描いたような「黒い白鳥(ブラックスワン)」が世界を覆った。
「黒い白鳥」は誰も想定していなかった出来事が世界を一変させてしまう現象を指す。不確実性を研究する元トレーダーのナシーム・ニコラス・タレブ氏が提唱し、2008年の金融危機を機に広く知られるようになった。「あり得ないもの」のはずが、コクチョウの発見で事実に変わってしまった逸話に由来する。
金融危機以降にかぎっても、11年の東日本大震災、16年の英国のEU(欧州連合)離脱決定と米トランプ政権誕生、20年のコロナショックと、近年は突発型リスクが頻発している。
2021年も再び「黒い白鳥」が飛ぶのだろうか。それは定義上、「誰も現実になるとは思っていないこと」なのだから、予想してリスクをヘッジすることはできない。
だが、少なくとも歴史から教訓を学ぶことはできる。
過去の危機で痛手を被った投資家は2つに大別できる。危機前に楽観的なメーンシナリオに傾斜して過度なリスクを取り過ぎた投資家と、想定外の事態への恐怖から急落時に投げ売りに走ってしまった投資家だ。
強気と弱気、両極端のように見える両者に共通するのは、有事への資金と心の備えの欠如だ。「黒い白鳥」は予測不能だが、急変に想像を巡らせ、余裕やバッファを持つことはできる。
パンデミックの中で株式などリスク資産が急激に値上がりし、波に乗りきれなかった投資家は「バスに乗り遅れるな」と焦燥感を覚えるかもしれない。そんな時こそ、「びっくり予想」を手掛かりに「あり得ない事態」について頭の体操をしてみてはどうだろうか。
(編集委員 高井宏章)

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難しげな専門用語が多く、とっつきにくい経済や金融の世界。ベテラン記者の「高井さん」が勘所をかみ砕いてスッキリ解説します。

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