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米金利急騰、許容範囲を超す臨界点は?

米国ドル長期金利の指標として注目される米国10年債利回りが1.3%を突破した。1月に1%台を通過後、2月に入り、上げが加速中だ。

歴史的には依然として超低金利水準ゆえ、この程度の金利上昇でも見逃がせない株価変動要因となる。

今後の株価への影響については、押さえておくべきポイントが2つある。

まず、名目金利が上昇中だが、同時に、インフレ期待も上がってきたこと。代表的指数としてBEI(ブレーク・イーブン・インフレ率)を見ると、1月に年率2%の大台を突破後、2月に入り直近で2.24%まで上昇してきた。その結果、実質利回りはマイナス1%の水準で推移している。ワクチン接種による経済回復期待を映す現象ゆえ、株式市場にとって追い風となる。

次に、米長短金利差が拡大中という点も重要だ。昨年は米国10年債と2年債の利回りが逆転するという逆イールド現象が発生。歴史的に見ると景気後退の前兆と見られるだけに、市場には不安感を与えた。それが一転、今年は順イールドに戻り金利差も拡大中だ。

2年債利回りが直近で0.12%近傍にあるので、長短金利スプレッドはプラス1.3%以上に達する。イールドカーブ(利回り曲線)は昨年の平たん化から右肩下がり傾向とは打って変わり、今年は急勾配の右肩上がり傾向(スティープ化)が顕著だ。短期金利は米連邦準備理事会(FRB)が政策金利をゼロ金利に抑え込む姿勢を堅持しているが、長期金利は市場が決めるゆえ生じた転換現象といえる。これは、株式市場にとっては朗報。特に銀行株には強い買い材料となる。

それでも、ドル金利急騰がなぜ、不安視されるのか。

ドル金利水準も「臨界点」を超えると、健全なインフレ期待を映す「良い金利高」から、インフレ懸念による「悪い金利高」と化すリスクがあるからだ。現状ではおおむね10年長期金利1.5%前後が、その「臨界点」と見られる。この水準を超すと、財政赤字膨張・国債増発が不安視される可能性がある。リーマン・ショック時には、この要因が米国債格下げにまで発展した。

ただし、リーマン・ショック後の体験として、今や経済構造が低インフレ体質になっているので、「高圧経済政策」でも物価は上がらないという傾向が指摘されてきた。欧米市場では「日本化」(ジャパニフィケーション)と呼ばれる。

この考え方は依然として根強いが、さすがにバイデン民主党政権が、経済回復期待が高まるなかでも追加的に1.9兆ドル規模の財政投入を強行するとなると、市場には「経済過熱懸念」も芽生えてきた。

それでも、FRBは量的緩和縮小(テーパリング)懸念を強く否定する。

16日にはセントルイス連銀のブラード総裁が経済テレビに生出演。「テーパリング? 考えることを考えたこともない」と一蹴してみせた。ところが市場心理とは複雑なもので、強く否定されると、かえって、深読みに走りがちだ。パウエルFRB議長も、当面、発言にはよほど注意せねばなるまい。特に米国株価指数最高値更新が続くと、市場内には「緩和依存症」への反省機運も出始める。

この問題の勘所は「雇用」であろう。1月雇用統計で最も懸念されたところが労働参加率低下であった。求職活動を諦めた長期失業者が増加傾向にある。「見せかけの失業率」は低下する。この雇用問題に解決のめどがたたぬ限りは、FRBの緩和姿勢に変化はあるまい。

ただし、急騰する10年債利回りはさすがのFRBも臨界点内に抑え込めまい。米国債市場は飛び抜けた流動性規模ゆえ、特に10年債のイールド・カーブ・コントロールは現実的に難しい。

ドル長期金利急騰現象は、移ろいがちな市場心理を映すので、「取扱注意」の要因である。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
・ツイッター@jefftoshima
・業務窓口はitsuotoshima@nifty.com
  • 出版 : 日経BP
  • 価格 : 1,045円(税込み)

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