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米アルケゴス、個人投資家も巻き込む 問われる業界モラル

米投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメント関連銘柄を早々と売り逃げて傷は浅手に済んだゴールドマン・サックスのデービッド・ソロモン最高経営責任者(CEO)が6日にテレビ生出演した。「我が社は、リスクを早くに察知してダメージを最小限に抑えた。社内の担当チームは良い仕事をしてくれた」と誇らしげに語った。

これを見て、苦々しく思った個人投資家も少なくないはずだ。

そもそも、アルケゴス騒動の発端は、創業者ビル・ホワン氏が「2つの隠れみの(個人資産を運用するファミリーオフィスと株式スワップ)」に包まれたまま、実質筆頭株主になるまで買い上げた米メディア大手バイアコムCBS株の増資計画の発表であった。

この「儲(もう)け話」に乗って、一般投資家が1株100ドル近くで新株を購入した直後に、当該増資の幹事会社として大量の同社株を売りさばいたゴールドマンが、アルケゴスを実質的な債務不履行状態と認定。アルケゴスに「名義貸し」して購入・保有していたバイアコム株を、増資時の半値以下で大量売却、という結果になったからだ。これでは納得ゆくまい。

増資計画発表が3月23日。前日22日に株価は年初から160%以上急騰して最高値の100ドル以上をつけていたが、昨日4月6日の同社株価は44ドルである。

バイアコム増資の内訳は2000万株のクラスB普通株が公募価格85ドル。1000万株の強制転換権付き優先株が公募価格100ドル。「パラマウント+」という動画発信サービスのコンテンツ開発が主たる目的とされた。

増資発表3日後の26日。幹事会社のゴールドマンが、ブロックトレード(市場外の相対取引)により売却処分したときの価格はすでに50ドルを割り込んでいた。通常ブロックトレードでは市場価格よりディスカウント(割安)で値決めされる。

ゴールドマンで増資担当のコーポレートファイナンス部門と、アルケゴスというファミリーオフィス担当のプライムブローカー部門の間に情報の共有はあったのか。同社スポークスマンは「社内で情報の障壁があった」ことを認めている。

モルガン・スタンレーの場合はJPモルガンと並び「主幹事」であったが、やはりブロックトレードで大量のバイアコム株を売却している。

アルケゴスとの取引関係はなかったと見られるJPモルガンは、今回の融資団全体の損失を円換算で1兆円程度と見積もっている。

損失を5200億円相当と発表したクレディ・スイス・グループと、損失2200億円前後だが調査中とする野村ホールディングスの2社は、逃げ遅れた結果になった。ゴールドマンが一足早く売却に動いた前日に銀行団とホワン氏の間で協議が行われたが、そのときの話し合いで「抜け駆けは控える」との口約束があった、とも伝えられる。「護送船団方式」と善意に解釈したのか。生き馬の目を抜くごとき激烈な競争にさらされるニューヨーク(NY)市場を甘く見ていたのか。本社の了解に手間取ったのか。NY市場は「クレディ・スイスが最終確定を発表したので、次は日本勢の番」と見守っている。

イエレン財務長官率いる「金融監督チーム」による、「株式スワップ」と「ファミリーオフィス」という2つの隠れみのに対する規制強化は必至だ。縦割り組織の弊害である「社内の情報の障壁」も問題視される。対投資家へのモラルが問われよう。

個人投資家にとっても「警鐘」といえる。バイアコム株価は新型コロナウイルス感染拡大直後の底値から一時8倍まで急騰した。それでも「動画配信のコンテンツ開発」の誘惑に乗って、さらなる株価上昇を期待した。過剰流動性相場が生んだ「気の緩み」は否定できまい。

セルサイド(販売業者側)のモラルとバイサイド(顧客)の自己責任を改めて考える機会ともなった。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
・ツイッター@jefftoshima
・業務窓口はitsuotoshima@nifty.com
  • 出版 : 日経BP
  • 価格 : 1,045円(税込み)

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