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イエレン次期財務長官、公聴会で「神対応」

イエレン次期財務長官、議会承認のための公聴会は3時間超えの長丁場。上院議員たちが持ち時間5分で入れ替わり質問を浴びせ続けた。各議員の地元を意識した演説調が目立つ。時節柄、異例のリモート公聴会ゆえ、画面の乱れ、音声の途絶えが頻発した。

それを受けるイエレン氏は、米連邦準備理事会(FRB)議長時代に定期的に議会公聴会に呼び出されていたので、経済に疎い政治家たちへの対応は慣れている。

FRB議長時代にはマーケットは本当に「お世話になった」ものだ。困ったときのイエレン頼み状態であった。

相変わらずブルックリンなまりのしゃべりが懐かしい。冒頭の「所信表明」では、いきなりニューヨーク(NY)のブルックリン地区の経済的に裕福とはいえない家庭で育ったことを語った。政治的に独立しているFRB議長から、民主党員の閣僚の顔に変身していた。

議員からの質問がバイデン増税問題に及ぶと、ダウ工業株30種平均が昨日の最安値水準に沈み、市場にも緊張感が走った。しかし、そこはイエレン節での「神対応」。「コロナ禍の今、公的債務の重荷を考えるときではない。持続可能な(サステイナブル)財政支出は長期的問題だ」「今、大胆な対応をせねば、将来の財政負担が増える」と語り「Act Big! 財政は大胆に」のキーワードで乗り切った。信頼される人柄だからこそ、この一言が市場に対する「神対応」になる。ダウ平均も持ちこたえ結局116ドル高で引けた。

やはりイエレン氏は市場心理を落ち着かせる何かを「持っている」と感じた。

ちなみに女子プロゴルファーのヒロイン渋野日向子選手が全米女子オープンで優勝争いしたときに「やはり彼女は何かを持っている」と表現されたが、「私が本当に『持っている』なら優勝してますよ」と語ったものだ。

イエレン次期財務長官指名は、疑心暗鬼が横行するマーケットに対するバイデン氏の適材人事といえよう。

とはいえ、「下町出身」のイメージをあえて冒頭に打ち出し、質疑応答でも「ウオール・ストリートよりメイン・ストリート(庶民層)」との表現を異議なく受け入れた。FRB議長時代の銀行規制の事例も誇らしげに語ってみせた。「規制にはすご腕」とされる米証券取引委員会(SEC)委員長と商品先物取引委員会(CFTC)委員長人事で、ウォール街は既に規制強化警戒モードに入っている。ここはキッチリくぎを刺した感がある。

「イエレン・プットとかで市場の皆さんから頼りにされていたが、私に甘えてばかりではダメよ」と諭されているごとき印象を筆者は受けた。

さらに、中国に対する激しい敵視表現にも、イエレン氏の民主党員としての側面が透けた。「虐待的、不公平、不法」などの形容詞を連発して、中国側を批判した。通貨安誘導も許さずの構えだ。「通貨安競争としてのドル安は容認せず」と明言した。「それでは、米国側もドル安は志向しないのか」と突っ込みたくなるところだ。ここは、今後のイエレン発言を見ながら「要経過観察」となろう。

なお、国債増発に関して、低金利ゆえ資金調達コストが低いことも強調した。ここは、パウエルFRB議長との連携が「要経過観察」だ。「50年債発行」について質問されたときには、待ってましたのごとく「現在の低金利を視野に考慮」と語っている。

「低金利」への言及は、案の定、民間でのテーパリング議論をも活発化させた。メディアでのエコノミストたちの見解も割れていた。

総じて市場感覚では、スイートだがかみしめるとほろ苦さも残るチョコレートを味わった、とでもいえようか。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
・ツイッター@jefftoshima
・業務窓口はitsuotoshima@nifty.com
  • 出版 : 日経BP
  • 価格 : 1,045円(税込み)

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