日銀ETF買い弾力化、相場の下げは限定(阿部健児)
大和証券チーフストラテジスト
日銀は2020年12月の金融政策決定会合において、2%の「物価安定の目標」を実現する観点から、より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検を行うことを決定しました。点検の結果は、3月の金融政策決定会合において公表される予定です。
黒田東彦総裁は20年12月と21年1月の金融政策決定会合後の記者会見で、上場投資信託(ETF)買入れについて、より効果的に持続可能な形で行うための点検は必要と発言しました。また20年10月28日、29日の金融政策決定会合の議事要旨によると、1人の政策委員会委員が「ETFやJ-REITについては、当面、積極的な買入れを維持する必要があるが、……(中略)……、政策の持続力を高める工夫の余地を探るべきと述べた」と発言したとあります。3月の金融政策決定会合に向けてETF買入れについて点検が行われ、何らかの政策変更が発表される可能性は高いと考えられます。
そのETF買入れに関する政策変更を見通す上で、参考になるのが、日銀が18年7月の金融政策決定会合で決定したETF買入れ弾力化です。ETF買入れ額について「市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうる」としました。
日銀の金融政策担当理事としてこの弾力化に携わった前田栄治氏は、20年10月22日の日経新聞朝刊で「極端にいえば、毎日株価が上がるなら買わなくてもいいようにした」としています。日銀内部には、株式市場が堅調なときのETF買入れに消極的な考えがあるようです。20年末の日経平均株価は約30年ぶりの水準に上昇し、TOPIXも18年7月末の水準を上回りました。21年1月5日の日銀のETF買入れ額は501億円で、1日当たり買入れ額を16年前半以来の規模に縮小しました。
こうしたことから、3月の金融政策決定会合において、日銀がETF買入れの更なる弾力化を行うと予想します。無論、新型コロナウイルス感染が収束していない状況では、ETF買入れによる金融市場安定化効果を完全に放棄する可能性は低いでしょう。そこで、年間約6兆円のETF買入れの原則を維持しながらも、例えば「市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動し、買入れを行わないこともありうる」とする等により、ETF買入れ額ゼロ円の可能性を示唆することが考えられます。

仮に、3月にETF買入れ額ゼロ円の可能性が示唆された場合でも、相場全体に対する中期的な株価押し下げ効果は1~2%程度と筆者はみています。理由は次の通りです。
21年3月時点で、23年4月8日の黒田総裁の任期満了まで約2年間あります。仮に、黒田総裁の任期を超えて約5年間にわたって約6兆円のETF買入れ政策が続くと市場が想定しているとした場合、6兆円×5年=30兆円、TOPIXの時価総額比約5%規模の買入れが想定されることになります。ETF買入れ額ゼロ円の可能性が意識されれば、時価総額比5%規模の需要が失われるため、TOPIXを一時的に5%程度押し下げるおそれがあります。
しかし、株価が下落すれば値頃感から買いを入れる投資主体もあると考えられます。特に今年は、コロナ禍からの経済正常化と菅政権による構造改革により、外国人投資家が日本株を買い越す傾向がみられる2つの条件、①先進国景気の回復、②日本の政策転換、を満たす年になると予想しています。その点では、先進国の景気回復と日銀による金融政策の大幅転換があったアベノミクス初期の2013年と類似しています。日銀がETFの買入れを弾力化しても、外国人投資家等による買いにより、TOPIXに対する中期的な押し下げの影響は1~2%程度に縮小すると予想します。
20年4月から経済協力開発機構(OECD)加盟国を対象としたOECD景気先行指数は上昇し始めましたが、外国人投資家による日本株買い越し転換はその7ヵ月後の11月でした。買い越し転換が遅れた理由の1つに、日銀によるETF買入れにより日本株の割安感が薄れ、外国人投資家が投資を抑制したことがあったと推察しています。3月の点検の結果、日銀によるETF買入れが減額されれば外国人投資家による日本株投資は増えやすいとみています。

[日経ヴェリタス2021年1月31日号]