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株高は中銀紙幣からの逃避(重見吉徳)

フィデリティ投信 フィデリティ・インスティテュート マクロストラテジスト 

2021年に入り、世界は新型コロナウイルスの感染拡大「第3波」に襲われる中、経済活動は再び、収縮を迫られそうです。米国の昨年12月分の非農業門雇用者数は、14万人の減少となりました。また、日本では「Go Toトラベル」が停止され、大都市部を中心に緊急事態宣言が発令されました。

各国の政府は、20年と同様、家計が日常生活を維持するためのお金や信用を得られるよう財政政策を打ち出すでしょう。そして、中央銀行は国債をさらに買い入れるでしょう。

世界金融危機では、金融機関が「システムにとって重要な機関」として保護されましたが、今回のパンデミックでは、家計や企業などすべての主体がシステムにとって重要な機関と位置づけられます。

これを受け、金融市場では、20年と同様、「不換紙幣からの逃避」が見られるでしょう。

20年3月から4月にかけて、米国では巨額の財政出動と金融緩和のポリシー・ミックスが発表され、他の先進国・地域もこれに続きました。

直後の4~7月の金融市場では、米ドルの名目実効レートは約4%下落しました。逆に言えば、米ドル以外の通貨は平均すると、米ドルに対して約4%上昇したわけです。不換紙幣の世界だけを見ていると「4~7月はドル安が進んだ」との解説になりますが、それでは、より大きな絵を見逃します。

米ドル建てで取引されるゴールドは、この間に約25%上昇しています。つまり、米ドルだけでなく、米ドル以外の通貨も、対ゴールドでは「売られた」わけです。そして、同じく米ドル建てのS&P500種株価指数は約27%上昇しました。

つまり、投資家は、中央銀行が自由に発行でき、実際に巨額の発行が続くお金を手放し、不換紙幣以外の資産に換えようしたのです。

これは、一般物価の高インフレ時に、人々が、受け取った給与をモノに換える動きと同じです。ゴールドや米国株式で言えば、4カ月で、20%を超える(資産)インフレであり、逆に言えば、不換紙幣の価値、すなわち購買力は、これらの資産を保有していた場合に比べて、20%も減少したことになります。

もしかしたら、今見たような「米ドル実効レートの変動率の絶対値よりも、ゴールドと米国株式の上昇率が大きい」事象は、よくあることと思われるかもしれません。しかし、20年4~7月のように、これが4カ月連続して起きたのは、「ニクソン・ショック」があった1971年以来、約50年ぶりのことです。3カ月連続としても、サンプルには、1979年の終わりから1980年にかけての1回しか加わりません。

「ニクソン・ショック」は、実質的にはドルの切り下げで、ドイツ・マルクや円は買われていたわけですが、20年のパンデミックでは、(大戦期の政府消費のようにやがては消えてなくなる)家計の消費を財政で直接支えたことに加え、新たに量的金融緩和を始める先進国の中央銀行がいくつか加わったことを踏まえても、幅広い不換紙幣からの逃避が起きたといってよいでしょう。

金融市場の弱気派の中には、「株価収益率(PER)などのバリュエーション指標で見る限り、株価には既に、数年先の業績の改善が織り込まれているため、そこから先の業績拡大が見込めなくなると、株価は下落しやすい」といった見方も聞かれます。

しかし、資産価格は、業績やその見通しが改善しなければ、上がらないというわけではなく、一般的なモノやサービスと同様に、他のモノやサービスの供給(本稿で言えば貨幣)が増えれば、その相対価格は上昇します。

言い換えれば、世界の投資家は、実体経済や業績の先行きに強気というよりも、金融資産の表示単位であり、モノやサービスへの交換手段であるものの、価値の保蔵手段としては、実は脆い不換紙幣の先行きに弱気なのかもしれません。

実際、S&P500種株価指数の12カ月先予想株価収益率(PER)と、米連邦準備理事会(FRB)の保有総資産とを比べると、似たような動きになっています。

我々は、貨幣で、我々の資産が守れるのかを考えなければなりません。

プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。
重見吉徳(しげみ・よしのり)
2002年大阪大大学院了(経済学修士)。農林中央金庫や野村アセットマネジメントで外債などの投資・運用業務に従事。JPモルガン・アセットマネジメントを経て、20年より現職。
[日経ヴェリタス2021年1月24日号]

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