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トヨタが担う水素カーの未来(窪田真之)

楽天証券経済研究所長兼チーフ・ストラテジスト

2020年は、世界の株式市場で電気自動車(EV)関連株が軒並み大幅に上昇しました。その中心は米テスラです。時価総額は12月には一時5000億ドル(約52兆円)を上回り、トヨタ自動車の時価総額の約2倍に達しました。テスラがここまで買われるのは、EVが世界中で次世代エコカーの本命と見なされるようになったからです。

ただし、EVは最初から本命視されていたわけではありません。EVは(1)充電に時間がかかる(2)1回の充電で走行できる距離(航続距離)が短い(3)充電ステーションの数がまだまだ少ない(4)価格が高い――という問題があり、2014年ごろまでは「ガソリン車の代替は無理」と思われていました。

14年ごろにガソリン車代替の本命と目されていたのはハイブリッド車です。ガソリン車とほぼ同様の使い勝手の良さから、高い評価を受けるようになりました。そのまま世界にハイブリッド車が広がれば、ハイブリッド技術を独占的に所有していたトヨタにとって、大きなチャンスになるはずでした。

ところが、車載電池の性能が向上し、EVが次世代エコカーの本命と考えられるようになった16年くらいから、風向きが一気に変わりました。脱ガソリン車→EV化目標を打ち出す国が急速に増えました。

英国やフランス、ドイツやスペイン、ノルウェー、スウェーデンなど欧州主要国は30~40年までにガソリン車・ディーゼル車の販売を全廃し、環境に配慮したEVなどに切り替える目標を発表しています。大気汚染に苦しむ中国やインドも、同様の方針を打ち出しています。

米国ではトランプ大統領がパリ協定から離脱し、環境規制撤廃を唱えていましたが、その間もカリフォルニア州など環境意識の高い地域では独自の規制を実施し、EVや燃料電池車の販売促進を図ってきました。1月からバイデン政権が始動すれば米国はパリ協定に復帰し、次世代エコカーを推進する規制を強化していくと考えられます。

EVの性能向上が進むにつれ、EV化達成の目標時期を早める動きが世界に広がり、それがEV関連株の上昇をさらに後押ししてきました。

このままEVが世界を支配する時代が到来するのでしょうか? それに待ったをかける可能性があるのが燃料電池車です。

燃料電池車にもいろいろな作り方がありますが、最も有望視されているのは、水素タンクに圧縮水素を充塡し、水素と酸素の化学反応で得られる電気を使ってモーターを回すクルマです。水素を燃やすときに水が発生するだけで、排出ガスはゼロです。燃料電池車も世界各国で次世代エコカーとして認められています。

 トヨタの新型燃料電池車「MIRAI」

燃料電池車のいいところは、ガソリン車と同じように短時間(2~3分)で燃料を充塡できることです。これはEVに対して特に優位な点です。航続距離もガソリン車並みに長くできます。トヨタが9日に発売した新型「MIRAI」は、航続距離850キロを実現しました。

現状ではインフラ(水素ステーション)は整っていませんが、時間とともに数が増えてくると思います。既存のガソリンスタンドに設備投資し、水素も扱えるようにする案が有力です。

問題は価格です。燃料電池システムを製造するには高度な技術が必要で、現時点では高いコストがかかります。トヨタの新型MIRAIは、14年に発売し世界で約1万台を販売した初代に比べて大幅なコストダウンを図っていますが、それでも価格は710万円から。同じ車格のガソリン車と比べると、まだ高額すぎます。

燃料電池車の未来は、トヨタがどれだけコストダウンを実現できるかにかかっています。トヨタが最初にハイブリッド車を試作したとき、「コンセプトは良いが、製造コストが高すぎて一般に普及させるのは難しい」といわれました。ところがトヨタは、お家芸のコストダウンによって、ハイブリッド車を大衆車として普及させることに成功しました。燃料電池車についても、近い将来、大幅なコストダウンを実現するのではないかと予想しています。

燃料電池車は今のところ、次世代自動車の本命と考えられていませんが、トヨタが大幅なコストカットを実現すれば、EVをしのぐ可能性もあります。自然エネルギーでつくった電気でグリーン水素を作り、自動車を水素で動かす世の中が来る可能性もあると考えています。

そうなることが、自動車を中心としてものづくり企業が強い日本株の価値が、世界で見直されるきっかけとなるでしょう。21年は、水素エネルギーを活用する技術革新が世界でどれだけ進展するか、注目していきたいと思います。

プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。
窪田真之(くぼた・まさゆき)
1961年生まれ。84年慶大経卒、住友銀行入行。87年より大和住銀投信投資顧問などで日本株ファンドマネージャー。2014年楽天証券経済研究所チーフ・ストラテジスト、15年所長。
[日経ヴェリタス2020年12月27日号]

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