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市場再編、売りには自社株買い活用を(苦瓜達郎)

三井住友DSアセットマネジメント シニア・ファンド・マネージャー 

2019年1月の当コラムで、当時盛んだった東証1部見直し論議に関して、「問題意識は理解できるものの、軋轢を起こしてまでやるほどのことではない」という私見を披露しました。その後、2020年2月に、時価総額が一定以下の企業に関しては東証1部の後身となる「プライム市場」からの退出を実質的に勧奨するという方針が示されましたが、そのボーダーラインは「流通株式」のみで100億円という、2019年に議論されていた中では低い水準に定められました。そして年末、「流通株式」の定義と、投資家にとってより重要なTOPIXの取り扱い案が発表され、ようやく市場見直しの全貌が見えてきました。

原則として時価総額30億円から1000億円の企業を投資対象とする私にとっては、見直し自体が面白くない話ですが、今回の案は比較的配慮が行き届いているため、右往左往する必要は小さいのではないかと感じています。以下でその理由をご説明します。

「流通株式」の定義に関しては、オーナーや親会社といった大株主だけではなく、小口の持ち合い株も除外されることになりました。一部の古い企業ではボーダーラインが実質的に切り上がることになりますが、市場全体で見れば特に大きな問題ではありません。

懸案だった市場区分の再編がいよいよ動き出す(東京証券取引所、東京・中央)

投資家にとってより重要なのは、現在東証1部全社を対象として算出されているTOPIXの取り扱いがどうなるかという点です。TOPIXから除外される銘柄に関しては、運用成績が指数に連動することを目指して算出対象全社に投資するパッシブファンドからの売りが一度に出て、需給が大幅に悪化するからです。現在、TOPIXを対象とするパッシブファンドの保有株は、大株主保有分を除いた発行済株式数の10%を超えると言われており、一度に放出されれば消化するのは困難です。

今回は「プライム市場」とTOPIXをいったん切り離し、移行期間を設けてその間で徐々に調整を進めることが発表されました。具体的には、一部からプライム市場への移行が2022年4月に行われるのに対し、TOPIXの算出対象入替は2022年10月から2025年1月まで四半期ごと10回に分けて行われる予定です。また、いったん除外対象となっても2023年10月までに「流通株式」の時価総額が100億円を超えれば「プライム市場」に区分されTOPIXの算出対象にふたたび加わる道が開けることも発表されました。

この方式だと、1回当たりの放出量は大株主保有分を除いた発行済株式数の1%ちょっとになり、市場での消化がかなり楽になります(なんなら、1社分を私1人で全部買うことだって可能です)。とはいえ、移行期間中盤までは今後何回も放出が予定されているため、心理的な需給の重しにはなりますが、敗者復活戦も予定されており、すべての銘柄が一方的に売り込まれることもないでしょう。

「流通株式」の時価総額が100億円を切っている企業は、まずは業績拡大による株価上昇を目指すべきでしょう。実質的な猶予期間が3年近く存在し、その間に外部環境も大きく変化することが予想されるため、業績を一変させるチャンスはかなり存在しているはずです。

また、割安かつ財務体質の強固な企業に関しては、投資家が驚くほどの思い切った増配を行うのも一案です。日本企業の多くが「財務の安定性は高いが成長投資の機会が少ない」という状態にあり、そうした企業は利益をすべて配当に回しても良いと私は考えています。

「流通株式」時価総額100億円を達成する見込みが薄い企業に関しても、財務体質が強固なら、移行期間中は自社株買いを行った方が良いと思います。企業側から見ると、自社の内容も見ずに勝手に買い集められた株式が制度変更によって放出されるわけで、それへの対応に資金を使わされるのは面白くはないでしょうが、一時的な需給悪化要因から株主を守る姿勢を見せることは大事だと思います。

逆に「時価総額を上げるために増資」と提案する証券会社が存在するかもしれませんが、間違ってもそんな話に乗ってはいけません。業績拡大につながらない増資は需給・収益希薄化の両面で株価を下落させ、時価総額が逆に減少することだってありうるからです。

プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。
苦瓜達郎(にがうり・たつろう)
1968年生まれ。東京大学経済学部卒業後、91年大和総研入社。アナリストとして窯業やサービス業の担当を経て中小型株を担当。2002年に当時の大和住銀投信投資顧問入社。中小型株ファンドの運用に携わる。

[日経ヴェリタス2021年1月17日付]

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