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「論破」より「対話」の場をつくろう 諏訪貴子さん

Think!1周年インタビュー いま、「発信」を考える②

 中小製造業が集まる東京都大田区に本社を置く切削研磨加工のダイヤ精機。2代目社長の諏訪貴子さんは、中小企業を残すため本などで発信を続けてきました。今秋には政府の「新しい資本主義実現会議」のメンバーにも選ばれています。誰もが発信しやすくなった今こそ、互いを尊重しながら発信し、議論する基盤が重要と語ります。

父の遺志を継ぎ、町工場の今を発信

これまで「町工場の娘」など2冊の本を出し、様々な発信をしてきました。父は志半ばで亡くなり、私が32歳で社長に就きました。父の遺志を継ぎ、なぜこの大田区でのものづくりに誇りを感じるのかを考えました。その結果、この工場を減らしてはいけない、そのためには黒字化させていかなければと強く感じました。私がすごくリーダーシップをとれる人間だったら経営者を集めて連携したり、新しいものを作ったりすればいいかもしれませんが、私にはそんなリーダーシップがありません。だったら自分の経営手法、考え方を発信し、その一つでも良いのでヒントを見いだしてもらえたらうれしいと思い発信を始めました。

もともと表現はすごく苦手でした。大学卒業して就職し子供が産まれて退社して、その後に専門学校で披露宴の司会を学びました。一番苦手な人前でしゃべることを克服しようと、フリーランスの司会業をしていました。社長もしゃべらなきゃいけませんよね。でも披露宴の司会者と社長の話し方は全然違ったんですよ。司会者は聞いてもらえればいいのですが、社長は理解してもらうのが大事です。どうやったら理解してもらえるのかをとにかく研究しました。

10年前、社内の生産管理で今のDX(デジタルトランスフォーメーション)にあたるものを始めたんです。これで生産性は上がるとみんなに知らせなきゃと思ったんですよね。無駄を排除し黒字化するため、部品製作のデータベースづくりが必要だと社員に事細かにまじめに説明しました。

講演での失敗を糧に

多くの講演に呼ばれるようになってから、失敗もしました。8年ほど前、横浜で中小企業診断士向けの講演をしたときのこと。終了後のアンケートを見たら「お前の話はつまらない」「生意気だ」です。それを最初は丸めてゴミ箱に捨てたんですが、全部拾い直して広げました。ではこの人たちは私に何を求めてるんだろうと考え、全ての人を満足して帰らせるのをまず目標にしました。披露宴の司会者は親族でも新郎新婦でも会場にいる人を3回泣かせたら成功といわれるんです。だから私は講演会で1回泣かせて3回笑わせようと考えました。

みなさんが興味を持つテレビ番組には物語がありますよね。私のストーリーを話そうと考え、今のスタイルができ、その後に本の話が来ました。実は父が緊急入院し後4日だと言われた時点から日記を始めていて、最後に「この経験はいつか誰かの役に立つ」と書いてあるんですよ。それが10年後に本になりました。 本の反響は中小企業の経営者、その後継者の皆さんからいただき、すごく励みになりました。

ニュースを俯瞰する

日常的なインプットは新聞です。ただ、新聞を読むのがちょっと苦手でした。経営者であれば世の中の情勢に敏感でなければと思っても続かなかったんですね。そこでデイトレーディングを始めたんです。これでニュースが気になります。3、4年前から毎日朝6時に起き、まず日経新聞をざっと10分くらい読んで、会社に新聞を持ってきて気になるところを俯瞰(ふかん)する。ネットのニュースは株の取引が始まった直後の朝9時半と11時半、午後2時半ぐらいに、できる限り3回は見ています。

デイトレで先を読み、企業の成長性を見るようになりました。もちろん数字も大事なのですが、世の中の心理というか、こういうときにこう動くと予測し、その逆を行くこともありますよね。今日のニューヨーク市場がこうなったから東京市場はこうなるかな、など自分の目線が外に向いたのは感じます。心理学的な要素もあり勉強になります。あとは、いろんな方からメールマガジンをいただいて、ヨーロッパ情勢などのリポートを読んでいます。

わかりやすく、印象に残る言葉

人に伝えるときは、わかりやすい、印象に残る言葉を心がけています。「新しい資本主義」会議に出ても感じましたが、準備をする官僚はプロでも、最後には安倍政権の「3本の矢」のようにその道のプロではない人にもわかりやすく伝えわらなくては意味がないと思っています。会議では事前に3回練習することもあります。テレビの討論番組に出演したときも、自分で台本をつくり印象的な言葉の選択もしっかりチェックします。

今は誰でも情報発信がしやすくなりました。それだけ不注意に他人を傷つけないよう、自分の言葉に責任をもって発信していかなければいけない時代ですね。今「論破」が流行っていますよね。勝ち負けを決めるだけでちょっと危険だと思います。やっぱり議論や対話で、相手の意見も聴いて、生産性につながるようなことをしたいと思います。

イギリスでは決闘の代わりにディベートがあり勝ち負けを判定したといいます。ディベートになると誰かを攻撃することが目的になってしまいますよね 。ディベートではなく、ディスカッションできるようなものを発信していかなきゃいけない。そこでイエスとノーをはっきりさせる必要はなくて、考えていくための場でいいと思うのです。「Think!」はそういう場であってほしいと思います。

諏訪貴子(すわ・たかこ) 1971年、東京都生まれ。成蹊大工学部卒業後、自動車部品メーカーに勤務。出産による退社を経て、当時社長だった父に請われダイヤ精機に2度入社するが2度リストラされる。2004年、32歳で父の逝去に伴い専業主婦から社長に就任、経営改革に着手。18年から日本郵便社外取締役も務める。中小企業政策審議会委員、政府税制調査会特別委員。著書に、「町工場の娘」「ザ・町工場」(ともに日経BP)。Think!エキスパートとして21年9月より活動中。(投稿一覧はこちら
https://www.nikkei.com/topics/topic_expert_EVP01103
【Think!1周年連続インタビュー 「いま、『発信』を考える」を読む】
第1回 競技者時代から武器にしてきた「言語化」 為末大さん(12月13日公開)
第3回  発信の極意は「本気で伝えたい」気持ち 福井健策さん(12月15日公開)
第4回 経験踏まえたストーリー展開こそ付加価値 中空麻奈さん(12月16日公開)
第5回 「面白がり力」鍛えるアウトプット 村上臣さん(12月17日公開予定)
2022年、私たちのワークシフト

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いま、「発信」を考える

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