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コンビニ、「製品ライフサイクル」が示す次の一手

ビジネススキルを学ぶ グロービス経営大学院教授が解説

自社の事業戦略を考えたり、競合他社の動きを理解したりするうえでマーケティング知識は重要になります。マーケティングには、多くの市場に当てはまる原理原則ともいえるフレームワークや理論が数多く存在します。今回はそのなかから基礎知識である「PLC(製品ライフサイクル)」を紹介します。PLCの考え方を用いることで、製品やサービスの置かれた状況をよりよく理解することができます。

グロービス経営大学院の嶋田毅教授がPLCの意味やポイントをコンビニ業界に当てはめて解説します。

PLCとは

PLCは市場の発展段階を4つに分け、その段階に見合ったマーケティング戦略や事業戦略を策定する参考にするものです。事業にも応用でき、その場合は事業ライフサイクルと呼びます。

4つの段階の特徴

PLCは単に市場規模だけに注目するのではなく、段階に応じて顧客のタイプも変わることを念頭に置きましょう。

①導入期 その製品・サービスの市場の発達の初期段階です。この段階ではまだ市場規模も小さく、競合も多くありません。新しい技術によって市場が創出されるケースも多々見られます。この段階における顧客は、全体の2.5%を占めるイノベーター(革新的需要者)、あるいは13.5%を占めるアーリー・アダプター(初期需要者)の中でも先進的な顧客です。

②成長期 新しい製品・サービスが市場に浸透し、市場規模がどんどん大きくなる段階です。それに伴って多数の競合が市場に参入し、競争は激化していきます。この段階の顧客はアーリー・アダプターから顧客の34%を占めるアーリー・マジョリティ(初期大衆)、同じく34%を占めるレイト・マジョリティ(後期大衆)と変化していきます。市場も細分化され、特定のセグメントに合わせた製品・サービスが導入されることもあります。

③成熟期 どのような製品・サービスであれ、いつかは市場が飽和し、成熟期に至ります。顧客層はレイト・マジョリティ、そして全体の16%を占めるラガード(遅滞需要者)が多くなります。成熟期に入ると、多くの場合、新規参入は減り、業界構造も固定化されます。市場に踏みとどまった企業の目標は市場シェアの維持、あわよくば拡大となります。

④衰退期 市場全体の売り上げが下がっていくフェーズです。市場シェア上位企業、あるいは特定のニッチ市場で存在感を示せている企業は生き残れますが、それ以外の企業は撤退していきます。市場シェア上位企業は比較的少ない投資のわりにキャッシュを得ることができるようになりますが、そこで得たキャッシュをその製品・サービスに再投資するのではなく、自社の新規事業に振り向けるケースが多くなります。

コンビニ業界の状況

今回はコンビニを取り上げます。コンビニはプロダクトというよりは事業に近いですが、PLCの考え方はほぼそのまま応用できます。

経済産業省のデータによると、国内のコンビニの店舗数は2015年くらいまではまだ増加基調にあったのですが、17年ころからはほぼ5万6000店から5万7000店の間で推移しており、典型的な成熟期にあるといえそうです。

成熟期においては、シェアを維持するためにも顧客のブランド・ロイヤルティーを高めることが鍵とされます。つまり、他のブランドに「浮気」されないようにする、あるいは他のブランドの客を自社にもってくるという方法です。その典型的手法が差異化です。自社ならではのユニークな差異化ができれば、顧客の維持・拡大がしやすくなるというわけです。たとえばローソンであれば健康を前面に打ち出すなどです。

差異化の他に戦い方はないのでしょうか? 1つの発想は、成熟期で伸び代がないという思い込みを疑い、成長余地を模索することです。その意味で最近ユニークな動きを見せたのがファミリーマートの無人決済強化です。これは、これまでには出店できなかったような場所に出店すべく、レジを完全無人化するというものです。

ファミリーマートは、レジの自動化や、商品補充のロボット利用の拡大で人件費を削減するとともに「それまでは出せないような場所(他業界店舗の敷地内など)」に出店できるようにしたのです。

コンビニ業界は、従来型の店舗という成熟期(いずれ衰退期)の業態と、無人決済店舗に代表される導入期の業態が混在した形ともいえます。これらをうまくミックスさせながら、他の小売業やサービス窓口から市場を奪っていくという発想が必要です。

PLCの留意点

PLCは役に立つフレームワークですが、渦中にいると今がどのステージなのかを正確に同定することが難しいという点には注意が必要です。あらゆる製品・サービスが典型的なPLCのS字型のカーブを描くわけではないという点にも意識する必要があります。中には、流行に応じて成長と衰退を繰り返す業界もありますし、あっという間に市場が立ち上がったと思ったら、翌年には一気に市場がなくなってしまうという極端なケースもあるのです。それらも意識したうえでうまく活用しましょう。

しまだ・つよし
グロービス電子出版発行人兼編集長、出版局編集長、グロービス経営大学院教授。1988年東大理学部卒業、90年同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経て95年グロービスに入社。累計160万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」のプロデューサーも務める。動画サービス「グロービス学び放題」を監修

「PLC(製品ライフサイクル)」についてもっと知りたい方はこちら

https://hodai.globis.co.jp/courses/ac561c63(「GLOBIS 学び放題」のサイトに飛びます)

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