酷暑の夏と電力不足 Think!エキスパートに聞く

日経電子版「Think!」は、各界のエキスパートが注目ニュースにひとこと解説を投稿する機能です。今回は、「電力不足」「酷暑」に関する主な投稿をまとめました。(投稿の引用部分はエキスパートの原文のままです)

【竹内純子さんの投稿】需給ひっ迫を回避するには、供給力を増やすか、需要を減らすしかありません。
供給力増加:発電設備の建設は間に合いませんので、既存設備の再稼働(安全性の確認された原子力/休廃止した火力発電所)が必要です。
需要の抑制:発電設備への無駄な投資を抑制するために以前から電力会社は、工場などの大口需要家に、直前に連絡すれば電気の使用を停止してもらう契約を用意していました。ただ、需要の抑制は経済活動を圧迫します。2018年1月に東電管内で8日間計13回抑制の発令があり、指令に応じて使用を抑制してくれる率が徐々に下がっていきました。電力確保は政府の重要な責務です。ここ数年の電力政策を振り返る必要があります。


【竹内薫さんの投稿】原子力発電所は(新型コロナ以前の)ワクチンと同じで、完全にタブー視されており、まともな議論ができません。日本独自の思想的な状況です。ウランはオーストラリアやカナダなどから輸入できるため、中東やロシアへの依存度が高い化石燃料のような不安定さがなく、発電時に二酸化炭素も出ません。一方、東日本大震災時に事故が起きて、地域住民の方々が大きな被害を受けたことは事実であり、国民の不安も強く、安全性に最大限の配慮を払うことが必要です。テクノロジーは日々進歩しており、原子力発電所の最新の安全設計なども議論されてしかるべき。しかし、議論そのものが封じられています。事実にもとづいて議論すべき時だと思います。


【福井健策さんの投稿】え、付けっ放しが節電?と驚きましたが、あくまで、エアコンが必要な場合に、適切な室温設定で使うなら、ちょくちょく入れたり切ったりするより自動運転の方が節電、という話ですね。
他の記事ではエネルギー源の議論も多いようですが、リスクもコストも少ない打ち出の小槌のような解決がないことは、間違いないでしょう。そもそも快適さを追求したエネルギー消費が主因で、人類史はここまで深刻な事態に至ったのですから、なんの我慢も犠牲も要さない解決などあるはずもありません。
家庭消費の第1位は照明。誰もいない部屋で煌々と照明がついている光景は、今でもオフィスや家庭の日常でしょう。まず出来ることをやる、夏にしたいですね。


【中室牧子さんの投稿】NY州の生徒は毎年最も気温の変化が大きい6月に大学入試の選考材料になる学力テストを行う。1999-2011年までの13年間のテスト情報と高校卒業の情報を照合した約10万人のデータをもちいた研究(Park, 2018)は、試験日の室温の上昇は学力低下につながることを明らかにしている。例えば、32度の日に試験を受けると、22度の日に受けたのと比較すると偏差値で1.4近くも差が生じるという。一方、多くの研究が気温がもたらす悪影響はエアコンの設置によって相殺されることを示す。空調を入れることによってマイナスの効果を78%も軽減できることを示す研究もある(Park et al, 2019)。


【吉田徹さんの投稿】フランスの原子力発電所は水不足と熱波のため、2015年から2020年まで年間1.4テラワット/時間(出力の0.4%)の発電量減少を 余儀なくされたと報告されている( https://www.concerte.fr/system/files/u12200/2021-03-10-GT_climat_4_nucleaire_v1-min.pdf )。河川の水温が上がれば原子炉が十分に冷却できないからだ。
温暖化対策として原子力に頼ることを選択した一方、その原子力自体も温暖化で稼働が不安定になるという袋小路に陥っている。こうしたジレンマはおそらく多方面でこれから生じるに違いない。


【ロッシェル・カップさんの投稿】どんな問題もポイント制度で対応できると言わんばかりの日本政府の考え方は本当に理解に苦しみます。節電はとても重要な問題ですが、他により良い対応方法があるのでは?
ポイント制度を作って運営するにはかなりの予算と人員を必要とします。他のコメンテーターが指摘しているように、この制度で付与する金額が人の行動に影響を与えるかも疑問です。そうしたお金は植樹に使えばいいかもしれません(樹木は街を涼しくする効果がありますから)。もしどうしてもポイント制度を作りたいというのであれば、新しい制度を作るのではなく、楽天ポイントなど既存の制度を使えば良いのではないかとも思います。


【高村ゆかりさんの投稿】気候変動の影響というと日本ではこのところ豪雨や台風による被害額が大きく、大雨の影響が目立っていた。例えば、2019年10月、東日本に広く大きな被害をもたらした台風19号の経済損失額は150億米ドルと推計され、損害保険支払額100億米ドルの約40%が気候変動起因と評価する研究もある(参照:19年の台風19号、地球温暖化で被害額5000億円増 )
他方、気候変動の影響の将来予測では、降雨パターンが変わり、水不足、干ばつの影響を受ける人口が拡大するとも予測されている。今年は、農業・工業用水、水道利用にも影響を及ぼすおそれがある様相で、通常はふんだんにあって気がつかない水資源の重要性を認識させる。今年は節電、節水の夏になるか。
【投稿一覧】
https://r.nikkei.com/topics/topic_expert_EVP00000
【エキスパート紹介】
https://www.nikkei.com/think-all-experts

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