FRB、株安までインフレ抑制要因として容認か
量的緩和時代に米国の実質マイナス金利が常態化したことにより、マネーは債券から株式にシフトした。しかし、今や実質金利はプラス圏に転じている。米財務省が毎日発表する10年債の実質利回りは年初の1月3日時点ではマイナス0.97%だったが、10月26日にはプラス1.60%まで上昇した。株式市場にとってプラスの実質金利は中期的な下げ要因として効いてくる。
市場が気にしているのは、米連邦準備理事会(FRB)内に政策金利も実質ベースで考えるべきだ、との論調が目立つことだ。中央銀行が株安を容認する姿勢とも映る。インフレ抑制が最優先で、失業増や株安は、現在の金融政策の「コスト」とみなすということか。その最たるものは、8月下旬のパウエルFRB議長による強硬な金融引き締め姿勢の表明後に株価が急落すると、ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁が「pleased=歓迎する」とまで語ったことだ。
さらに政策金利を実質でプラス圏にすべきだとの考えは、そもそもニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁の持論だ。その後、FRB高官からも同じような発言が時折出てくるようになった。シカゴ連銀のエバンス総裁は、政策金利が実質でプラス2%程度が望ましいと語っている。
そもそも「パウエル議長は株価につれない」というのは、ニューヨークの市場関係者の間でしばしば聞かれる嘆き節だ。バイデン米大統領率いる民主党にも、株式投資のインカムゲインの課税対象に「含み益」まで加えて増税に動く可能性がある。米中間選挙の論戦では、共和党側から「インフレ退治のために失業増を本気で許容するのか」との強い反論も目立つ。
(量的引き締め)QTによる流動性低下が誘発する金融・資本市場の不安定性も、インフレ抑制のためのコストとの見解がある。市場の安定化はFRBのミッションであるはずだが、株高はインフレを促進する要因ゆえに、多少の乱高下はやむを得ずとの発想だ。
これらの議論は、中間選挙を前に政治問題化しており、市場も座視するわけにいかない。

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