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対個人、ヘッジファンドが反撃 米緩和縮小論にも一石

米国市場で素人集団とヘッジファンドのせめぎ合いに歯止めがかからない。標的となったゲームストップ社の株価は26日の日中取引で9割強の急騰となった。さらにテスラ社のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が「参戦」を示唆するツイートをして、時間外取引では日中終値から一時、約7割上昇した。

個人投資家集団のコール・オプション攻勢に、ヘッジファンド側の反応は割れる。損失を確定後に別の保有銘柄を売って損失を埋め合わせる動きがある一方、「株価は企業業績では正当化できない」として新たに空売りポジションを増やす動きもある。こうした売りがなければ、株価はもっと上がっていただろう。ビットコインより激しいボラティリティー(価格変動性)だ。

このバトルを見守る他の個人投資家や機関投資家は「クレージー」だと傍観を決め込んでいる。日本時間明朝には1月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果が発表され、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が記者会見に臨む。

今回、市場参加者が注目するのは「テーパリング」(量的緩和縮小)だ。国際通貨基金(IMF)は2021年の米国の経済成長率を3.1%から一気に5.1%に引き上げた。日本時間けさのバイデン米大統領による演説では、今年夏から秋の初めころには米国人全員への新型コロナウイルスワクチンの接種を「公約」として掲げた。変異ウイルスというリスクは残るが、マーケットの大勢は年後半の米経済の本格回復を織り込んでいる。

今回の株高の特徴は個人投資家参加型という点だ。パウエル氏とイエレン米財務長官が振る舞った「過剰流動性」「個人給付金」という「お小遣い」をミレニアル世代の一部が株式投資に振り向けるという構図。しかし、金融知識が不十分なため、カリスマのツイート一つで「イナゴ集団」が動くという危うい状況だ。

今回使われているSNS(交流サイト)の「レディット」は投資、住宅ローンから観葉植物に至るまで幅広い分野をカバーする「お助けサイト」だ。そこでは、ネット上のカリスマ的人物が「ゲームストップ株を数十万ドル買うよ。レッツ・ゴー!」と書き込めば「私は初心者で怖いけどやってみようかな」「流れに乗り遅れるな!」などの反応が連鎖的に生じる。個人給付金や量的緩和マネーの一部のこうした流れは、すでに個人向け投資アプリ「ロビンフッド」の登場で知られるところとなった。

パウエル氏は会見で「それでもテーパリングは考えることも考えないのか」と詰められそうだ。同氏はこれまでの否定発言を繰り返すとみられるが、FOMCメンバーには公然と年内にテーパリングの可能性を言及する向きもある。ボスティック・アトランタ連銀総裁などが(インフレ抑制を重視する)「タカ派」である。

パウエル氏も少数意見としては言及するかもしれない。テーパリングを否定するにしても、どのような形容詞や副詞を使うのか、というところまで注意して市場参加者はパウエル氏の真意を読み解こうとするだろう。

パウエル氏がテーパリングを示唆するのは、実質金利のマイナス幅がさらに拡大した時ではないか。米国10年債名目利回り(現在1.03%程度)からインフレ期待の指標(ブレークイーブン・インフレ率=2%強)を差し引いた実質利回りの推移をみてみる。テーパリングの足音が忍び寄れば個人の投機家対ヘッジファンドの今の死闘も一転して売り方が有利になろう。

バイデン大統領は1.9兆ドルの大型予算案のなかで、共和党への妥協案として1人1400ドルの追加給付金の削減を検討している。給付金受給資格として年収条件を原案より低く抑える措置などが考えられる。ミレニアル世代の中でも所得格差はあるが、「お小遣い」が減れば株式投資に回すおカネも少なくなろう。かくして、市場を騒がせているバトルは早晩、「停戦」を余儀なくされよう。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
・ツイッター@jefftoshima
・業務窓口はitsuotoshima@nifty.com
  • 出版 : 日経BP
  • 価格 : 1,045円(税込み)

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