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「バーナンキショック」2021年市場への教訓

米国で22日に予定される米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長による議会証言が注目されている。

FRBによる量的緩和縮小の予告が市場の混乱を招いた2013年の「テーパータントラム」第1波もFRB議長の議会証言が始まりで、投資家にはトラウマが残る。

13年5月22日、当時のFRB議長であるバーナンキ氏はまず事前に公表した声明文で「QE(量的緩和)縮小は時期尚早」としていた。安堵した市場は株高で反応した。しかし議員との質疑応答で事態は一変。「マクロ経済環境次第だが、次回または次々回(in the next few meetings)の米連邦公開市場委員会(FOMC)で資産購入縮小もありうる」と発言したからだ。

景気重視の「超ハト派」と言われたバーナンキ氏が「QE縮小」について具体的かつ詳細に語るシーンに投資家は絶句した。声明文で「QE継続モード」と考えた投資家にしてみれば、一瞬耳を疑う「変身」だった。株価はリーマン・ショック以来といわれるほどの急落となった。

第2波は同6月19日に起きた。6月のFOMC後の記者会見でバーナンキ氏は「これはシナリオであり、政策決定ではない」と断ったうえで「later this year(今年後半)には資産購入ペースを減速させ、慎重にだが段階的に来年前半は資産購入減額を継続して、来年半ばごろに終了」と具体的なスケジュールを明らかにした。

しかも、経済見通しの下振れリスクについて「diminished(減った)」というこれまで使わなかった単語で明確に表現したので、FRBは楽観的との印象を市場に与えた。緩和縮小の前提条件である米国経済の持続的回復について強い自信を示したわけだ。このFRB流の用語の使い方は、今も参考になる。

13年3月発表の政策金利見通し(ドットチャート)では、年内利上げが1人、14年の利上げが19人中5人。15年は19人中18人にのぼっていた。当時のFOMCの決定は10対2の多数決だった。2人の反対者のうちの1人が、18日の米国株急落のきっかけとなった利上げ前倒し発言のブラード・セントルイス連銀総裁であるのも興味深い。

このテーパータントラムについて当時、本欄で5月に「『量的緩和なき世界』に身構える市場」、6月に「FRB議長、量的緩和縮小に明確なシナリオ示す」として解説している。

そして21年6月。市場は「ミニテーパータントラム」といわれる変動に直面している。21日の米国株式相場は大幅に反発したが、米長期金利は一時、1・3%台まで急低下した後に1・5%近くまで上昇と乱高下した。株式市場では米金利を巡り長期が低下して短期が上昇した結果としての長短金利差の縮小は「景気鈍化の兆し」と警戒されやすい。このため長期金利の急上昇を歓迎する傾向もある。

FRB議長の市場との対話に関しては、当時のバーナンキ議長は根回し不足だったように思える。パウエル議長も就任直後は「お騒がせ発言」もあったが、その後は如才なく切り抜けてきた。

とはいえFRBの資産規模はバーナンキショックのころと比べて国債と住宅担保証券の購入継続で8兆ドル台まで肥大化している。いったんは減ったものの、思わぬ新型コロナウイルス禍で、未曽有の規模にまで膨れあがってしまった。ここまでくると、もはや「資産規模が大きすぎて減らせない」状態だ。

保有国債の満期がきたら再購入はせずに徐々に減らす、というイエレン議長時代のやり方ではもはや手が付けられない。かといって、FRBが売却を始めれば米長期金利は一気に急上昇するリスクがある。

投資家からみると過剰流動性相場は変わらない。あふれる過剰流動性は米短期金融市場にも流入しており、マイナス金利を誘発しかねずFRBはマネーの交通整理に追われている。テーパリング開始で一時的に市場が混乱しても、マネーがリスク資産に向かう傾向は続くだろう。金融当局としては、米国証券取引委員会(SEC)と金融安定化のための規制を強化する方向に動かざるを得ない。すでにビットコイン乱高下、個人投資家の短期売買による騒動、米投資会社アルケゴスの問題、特別買収目的会社「SPAC」の隆盛など過剰流動性の落とし子のごとき異常事態に警戒の目を光らせている。モグラたたきのような当局と投機家のせめぎ合いが続く。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
・ツイッター@jefftoshima
・業務窓口はitsuotoshima@nifty.com
  • 出版 : 日経BP
  • 価格 : 1,045円(税込み)

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