広がる「分配金は不要」 未分配投信の残高4割超す
投信観測所
運用開始以降、一度も分配金を支払ったことのない「未分配ファンド」の投資信託市場でのシェアが4割を超えてきた。毎月分配型を中心に分配金を出すファンドが市場を席巻していた10年前には全体の1割にも満たなかった。
つみたてNISA(積み立て型の少額投資非課税制度)や確定拠出年金(DC)制度が普及期に入ってきたのも、未分配ファンドの台頭を後押ししている。
未分配投信の残高増大、37兆円に
設定から現時点まで分配金を1円も払い出したことのないファンドの運用資産規模が膨らんでいる。2011年末には3兆円弱にすぎなかった合計残高は21年8月時点で37兆円近くに達した。これに対し、一度でも分配金を支払ったことのあるファンドの残高は計46兆円弱。
集計対象は上場投信(ETF)を除く国内籍の追加型株式投信で、設定が21年などいまだ最初の決算を迎えていないファンドも未分配に含めた。

未分配ファンドの全体に占める残高比率の推移をみると、10年前の7%弱から増加基調を強めているのが分かる(図A)。直近では全体(82.4兆円)の約45%を占めている。
ファンド本数で比べてみても、未分配は2375本と全体5498本の約43%という状況だ。投信といえば収益分配金がつきものだったが、今や分配金を必要としない投資家層がぐんと広がっているのを意味する。
大きな背景としてあげられるのは、かつて一世を風靡した毎月分配型ファンド離れの流れだ。収益分配金とうたいながらも実は元本を取り崩している不透明な仕組みが敬遠されるようになった。分配金を出すとその分、運用資産が減るのも残高増加の頭を押さえる。
代わって残高が拡大しているのは決算回数が年1回や2回で、海外株で積極運用するタイプ。投資家の利回り志向がリターン追求志向にシフトしてきたともいえる。
積み立て投資が普及期に入ってきたのも見逃せない。長期の積み立て投資では分配金をもらう意味がほとんどないためだ。現に、つみたてNISA対象とDC専用ファンドを合わせて計710本あまりのうち、未分配ファンドは8割を占める。
つみたてNISA対象ファンドが残高上位に
残高の大きい主な未分配ファンドを表にまとめた(図B)。表の大半は年1回決算型で、運用成績もおおむね堅調。8月末までの過去1年では多くが日本株市場平均である配当込み日経平均株価と配当込みTOPIX(東証株価指数)のリターンを上回っている。

残高首位は昨年7月に設定された「グローバルESGハイクオリティ成長株式ファンド(為替ヘッジなし)<愛称:未来の世界(ESG)>」。世界株を対象に企業のESG課題への取り組み評価も取り入れてアクティブ運用する。
「フィデリティ・日本成長株・ファンド」や「さわかみファンド」のように運用を始めてからこれまでの22年以上、分配金の支払いがないファンドもある。
注目は、つみたてNISA対象の低コスト・インデックスファンドが残高を急速に伸ばしている点。「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」の運用資産は3年前の20億円台から6000億円を超すまでに成長した。
今後の金融市場動向にもよるが、つみたてNISAの口座開設数が拡大の一途をたどっている現状からは、低コスト・インデックスファンドを中心とした未分配ファンドの一段の拡大傾向が見込まれる。
未分配ファンドが投信市場の過半を占めるのは時間の問題とみられ、つみたてNISAやDCなどを軸に、投信市場の主役が高齢層の投資家から分配金には魅力を感じない若年層にじわり交代する動きが出始めてきたようだ。
(QUICK資産運用研究所 高瀬浩)