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習近平政権は恒大を見限るのか、官主導の業界再編も

「9月は株が売られやすい。特に今年は9月17日が要注意日だ」。こう予言していたのは米CNBCのキャスターとして人気の元著名ファンドマネジャー、ジム・クレーマー氏。高値圏にあった米国株への警鐘だった。翌週に米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催され、さらに市場では米連邦政府の債務上限問題への警戒感も高まっている。クレーマー氏の他にも、高値圏から10%程度の株価調整は不可避とみる関係者は多かった。

そこに飛び込んできたのが中国の不動産大手、中国恒大集団の資金繰り懸念だ。数年前から経営不安説が流れていたが、ここ数カ月「デフォルト(債務不履行)の可能性」が広範にささやかれていた。週明けの米国市場で改めて警戒感が高まったのは、いよいよ23日以降、相次ぎ社債の利払い日を迎えるためだ。投機筋には格好の売りの口実になった。20日の米ダウ工業株30種平均は一時、前週末から900㌦超の下落となった。

中国の社債市場ではドル建て債も含めデフォルトが懸念され始めている。とはいえ、市場はまだシステミックリスクを真剣に懸念しているわけではない。マージンコール(追加証拠金の差し入れ義務)に対応する支払いのため、他の保有資産まで広範囲に売却する「信用収縮の世界的連鎖」は現時点ではみられていない。

より現実的なシナリオとして懸念されているのは、中国の不動産セクター全体への波及だ。中国では不動産は個人資産の中核を占める。不動産価格の下落は「負の資産効果」により、新型コロナウイルスのデルタ型感染拡大でもともと萎縮していた中国の消費者心理に大きな打撃となるのは必至だ。直近発表の中国のマクロ経済指標は、デルタ型の感染拡大の影響を色濃く映して悪化していた。

恒大集団に関連した資産運用商品「理財商品」を購入した個人投資家たちは、本社に乗り込む騒動に発展している。今回ばかりは中国政府も個人投資家に痛みを共有させることで、「損失は政府が補塡してくれる」と期待するモラルハザードは回避する姿勢だ。

市場が読み切れないのは「大きすぎてつぶせない」とみられてきた恒大集団を、中国政府が見限るかどうか、ということだ。

相次ぐ民間企業への締め付け強化の一環なのかもしれない。だが、恒大集団の場合、巨額債務は単に銀行融資や社債だけではなく納入業者、マンション購入者なども関わる極めて複雑な構図になっている。一般社会への影響ははかり知れない。「管理されたデフォルト」に導くのは危うい賭けである。習近平(シー・ジンピン)国家主席流の強権政治も「もうけたい」という人間の欲まで抑え込むことはできなかった。

万が一、恒大集団を見限るにしても、その場合、中国人民銀行(中央銀行)による緊急流動性投入や、官主導の業界再編すなわち同業他社への支援要請など、経済ショックを和らげるための強力な政策が発動されることは間違いなかろう。「中秋節」で上海市場があすまで休場であることは、当局の時間稼ぎの機会にもなり得る。ヘッジファンドのなかには、そこまで読み、押し目買いの動きも見られる。

この時期、中国で好んで食べられる月餅の味も今年はほろ苦い。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
・ツイッター@jefftoshima
・業務窓口はitsuotoshima@nifty.com
  • 出版 : 日経BP
  • 価格 : 1,045円(税込み)

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