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暗号資産が市場翻弄、FOMC議事要旨で理性回復

大山鳴動してこの程度で収まったか、との感がある。19日の米ダウ工業株30種平均は前日比164㌦安だった。

振り返れば、慌ただしい24時間であった。中国が銀行の暗号資産業務に禁止令を発したことでビットコイン相場は一気に3万ドル近くまで暴落した。最高値の半値水準だ。

驚いたのは、株式市場がこの修羅場で一時、運用リスクを回避する「リスクオフ」に陥ったことだ。暗号資産はまだ「資産クラス」として認知されたとは言いがたい存在だ。しかし、投資家は自分だけが出遅れることを恐れて買いブームに乗った。機関投資家も米国の生命保険会社などが参入し、米国のカリスマ投資家たちも次々に買いを勧めた。米テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)の積極的な姿勢は特に影響力があった。それゆえ、マスク氏の方針転換がビットコインへの売りを加速させた。市場規模は限定的ながら、株式などを含むマーケット全体への心理的影響が強まっているのが確認された。

今回の波乱で、ビットコインの「ヘッジ機能」に疑問符がついたのも事実だろう。ボラティリティー(価格変動)がこれほど激しいと「インフレに備える資産」として保有すること自体がリスクになってしまう。暗号資産業界の悲願はビットコインの上場投資信託(ETF)実現だが、米国証券取引委員会(SEC)が承認する可能性は遠のいたといえよう。

筆者は、金ETFを米国で上場するプロジェクトに直接関与し、SECに日参した経験がある。そこで、SECが最も神経質に確認を求めたのは「原資産の価格に正確に連動すること」であった。そのためには自らリスクをとって顧客の売買注文をいつでも引き受けるマーケットメーカーの存在が欠かせない。SECは少なくとも3社の大手マーケットメーカーの参加が望ましいとの姿勢であった。

暗号資産のETF実現には、例えばこの24時間に起きたようなビットコイン価格の大変動のさなかでも常に売値(オファー)と買値(ビッド)を提示するディーラーが複数必要ということになる。ディーラーの立場では、無理筋だ。値付けを強制されても、売値と買値の差(スプレッド)は極端に大きく開いてしまう。

機関投資家の立場でも、暴落中に市場の流動性が枯渇して売り逃げできないことの恐怖は、リーマン・ショック時に経験済みである。

それでもビットコイン価格は3万ドル台を維持している。今回損失を被ったのは、この数カ月間にビットコイン・バブル狂騒曲に踊った投機家たちといえよう。

米東部時間19日午後には米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨(4月分)が発表された。

複数の参加者が条件付きながらテーパリング(緩和の段階的縮小)の議論を始めるべきだと考える、との文言が「緩和縮小開始の合図」とも解釈された。もっとも3月のFOMC時に発表の米連邦準備理事会(FRB)による経済リポートのドットチャート(参加者による金利予測)では、4人のタカ派の参加者が2022年の利上げを予測していた。カプラン・ダラス連銀総裁は出演したテレビで、自らがその4人の一人だと異例の告白で認めている。ボスティック・アトランタ連銀総裁やブラード・セントルイス連銀総裁も、テーパリングとの用語は使わなかったが、その可能性には言及した。したがって、市場はこの時点である程度織り込んでいるところだ。

さらに、テーパリングの必須条件として経済の本格回復が挙げられるのに対して、まだ雇用のミスマッチなどが目立ち、労働参加率は依然低い水準にとどまる。就業するより追加給付付き失業保険のほうが収入の高い人々、学校が再開されてもまだ不規則で結局家庭を離れられず働けない親たちなどがいて、営業再開の飲食店や住宅建設現場では労働力不足が足を引っ張る。感染を恐れるトラウマで就職をためらう人たちも少なくない。望む職種がみつかるまで失業保険でしのぐ就業希望者も多い。いずれも「一過性」だろうが、FOMCとしては慎重な見極めが必要となる。

FRBのパウエル議長は緩和縮小など「考えることを考えたこともない」と言ってきたが、「考えることは考える」との姿勢に一歩進んだだけとの印象が残った。

スケジュールとしては6~7月のFOMCでテーパリングを議論し、8月のジャクソンホール会議で一般論としてテーパリングの必要性に言及の後、9~11月のFOMCでテーパリングを決定し、12月~来年1月のFOMC後にテーパリングを開始というのが市場参加者の最大公約数的な見解である。こうした見方を反映し、外国為替市場ではドルの総合的に強さを示すドル指数は、議事要旨の発表直後に90台を回復しドル高に振れた。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
・ツイッター@jefftoshima
・業務窓口はitsuotoshima@nifty.com
  • 出版 : 日経BP
  • 価格 : 1,045円(税込み)

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