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パウエル氏、日本型停滞を回避へ バブルは年内容認か

注目だった6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)。結果はサプライズだった。

利上げについて、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は「考えることを考えたこともない」としていたが、今回の記者会見では「話し合うことを話し合う」と明言した。さらに「FRBのインフレ期待感」については、日本の長期停滞を具体例として挙げて原油急騰など短期要因ではなく長期動向が重要と語った。前回のFOMC以降に消費者物価指数の急騰などの過熱要因が顕在化しているが、「それでもインフレは一過性」との見解は変えなかった。

同時に発表されたFRBの経済見通しではFOMC参加者が予想するインフレ率の中間値は前回の2.4%から3.4%に切り上がった。経済成長率の予測も7%と上方修正した。長く低インフレ体質に慣れ切った市場関係者の感覚では、バブルを想起させる数字だ。ヘッジファンドは、インフレを前提にした短期運用である「インフレトレード」は年内は継続と意気込む。ただし、FRBは2022年には成長率が3.3%、インフレ率は2.1%へ落ち着くと見込む。年内から来年にかけ「かなりの市場変動を覚悟せよ」とのメッセージとも読める。

FOMC参加者の金利予測分布を示すドットチャートは、22年の利上げ予測派が前回4人から7人に増加。23年については利上げ予測が18人中13人で、しかも利上げ回数の中心値は2回となっている。FRBが金融引き締めに積極的な「タカ派」に転向した感がある。

とはいえ、パウエル氏はヘッジもかけている。いわく「ドットチャートは時に外れるものだ。FRBも民間も経済予測は誤ることがある」。開き直りのような表現だ。分かり切ったことゆえ、余計な一言に聞こえた。

中央銀行のトップがここまで明確に予測の限界を明示すると、市場の不透明感が強まる。ドットチャートに対する市場の異常なまでの注目に対する警鐘とはいえ、誰も肯定も否定もできない状況は、投機筋に「いいとこ取り」の機会を提供する結果になる。

「テーパリング(量的緩和の縮小)の号砲は8月のジャクソンホール会議で」とのこれまでの見方は機先を制された感があり、市場参加者の関心はテーパリングの具体的時期と縮小のペースに集まる。

パウエル氏は会見で、インフレ率が急上昇したかなりの部分は低い水準だった前年同月との比較という「ベース効果」によるもので、さらに中古車価格の急騰など限定的な現象の影響も強いと述べる。ベース効果が薄れる7月以降のインフレ率がより現実に近い数字といえよう。そこを確認したうえで、9月FOMCでテーパリングを決定し、早ければ年内開始とのシナリオが現実味を帯びてきた。

パウエル氏は繰り返し、十分に時間を取って予告したうえで市場の混乱を避けると明言してきた。会見では「それを、どのようなかたちで実現させるのか」との質問も飛んだ。FRB副議長や理事たちに講演を通じてアクションプランの検討事例を語らせるのか。いずれにせよある日、突然「何月から何ドル規模の縮小を開始する」と発表するわけにもゆくまい。最近、FOMC参加者が好んで使う表現が「忍耐強く」(patient)という単語だが、市場は忍耐が苦手だ。すぐにじれる。テーパリングの発表、実行のスピード感も極めて重要である。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
・ツイッター@jefftoshima
・業務窓口はitsuotoshima@nifty.com
  • 出版 : 日経BP
  • 価格 : 1,045円(税込み)

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