米テーパリング、中国は「迷惑至極」 人民元急落を警戒
今週の米連邦公開市場委員会(FOMC)を巡って、思わぬところから質問がきた。中国・上海の銀行家だ。筆者が中国の商業銀行のアドバイザリーを務めたとき知り合った。
質問は「今回のFOMCで緩和縮小(テーパリング)の方向性が明示されるのか」というもの。2013年の「バーナンキショック」は中国でも鮮烈な記憶として残っている。今回のFOMCで緩和縮小に市場の想定以上の言及があれば、上海市場への影響も不可避だ。特に人民元の急落リスクが危惧される。人民元の対ドル相場は現在、ほぼ3年ぶりの高値圏にある。中国人民銀行(中央銀行)は、外貨の預金準備率引き上げという14年ぶりの措置で人民元高のけん制に動いた。その背景には、米国のゼロ金利政策がリスクはあっても高い利回りを求める外国人のマネー流入を促してきたことがある。テーパリングへひとたび潮目が変われば、足の速いマネーは一気に流出に転じるリスクがある。
このマネー流出入を可能にしたのが上海証券取引所と香港取引所との間で相互に取引、決済を可能にした上海香港ストックコネクトだ。香港経由で中国の債券を売買できる「債券通(ボンドコネクト)」も始まっている。最近は海外勢による中国国債の購入も増えた。今後も中国の地方債市場のインフラ整備や流動性向上のためには海外機関投資家のマネー流入が欠かせない。
中国株はMSCI新興国株価指数に組み入れられ、中国国債は今年10月末からFTSEラッセル国債指数に段階的に組み入れられる。通貨の世界では、人民元が国際通貨基金(IMF)のSDR(特別引き出し権)の構成通貨として米ドルやユーロ、円、ポンドに次ぐステータスを与えられた。このため人民銀は露骨な為替介入には慎重だ。
人民元安には、中国による輸出製品の国際競争力が高まるという好影響も期待できる。問題はそれが節度あるペースで進むのか、制御不能の通貨安に陥るのかだ。米国のテーパリングでショックが起きれば、米国の金利急騰を通じた後者のケースを想定せねばなるまい。そこで人民銀がなりふり構わぬ市場介入を繰り返せば、米中経済協議の場で問題化する可能性がある。中国側の不満は筆者も耳にする。「量的緩和で世界にばらまかれた米ドルの過剰流動性は中国でも不動産バブルを誘発した。それが一転、回収、引き揚げへ転じれば中国国内で信用収縮が生じるリスクがある。米連邦準備理事会のパウエル議長の一言に振り回されるのはご免こうむりたい」
現在の人民銀の金融政策スタンスは、やや引き締め方向に軸を移した段階だ。新型コロナウイルスの感染拡大への対応だった緩和政策が国内債務の急増を招き、その削減を余儀なくされている。しかし、引き締めは失業を増やすので人民銀は危うい綱渡りを強いられている。
そこに、米テーパリングの余波が襲えば「迷惑至極」というわけだ。名刺に行内の役職と並び中国共産党における序列も誇らしげに明記する中国の銀行家も、当惑を隠せない様子だ。

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