FRB、タカ派とハト派の見解読む勘所
14日の米国株先物はめまぐるしい動きだった。ロシアのラブロフ外相が「対話の道は開かれている。常に合意のチャンスはある」とプーチン大統領に進言したと伝わり、取引開始前にダウ工業株30種平均の先物が買われた。だが、セントルイス連銀のブラード総裁が出演したテレビ番組で20分以上しゃべると再びマイナス圏に転じた。
ブラード氏は昨年来、2022年の早期利上げを主張してきた。今や3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げはほぼ確実な流れとなり「私の説に(FOMCが)寄り添ってきた」と胸を張る。昨年秋以降、金融政策の影響を受けやすい2年債利回りは、100ベーシス(1%)も急上昇した。市場はすでに1%の利上げを織り込んでいる。米消費者物価指数(CPI)も上昇が続き、インフレは加速中だ。それゆえ「7月までに1%利上げしても市場は混乱しないだろう」と述べた。3、5、6、7月と4回のFOMCで連続して0.25%幅で利上げするか、3月に0.5%幅で利上げしてあと2回、0.25%幅で利上げするのかについては含みを持たせる。
その間にウクライナ情勢がエスカレートしたらどうなるかとの質問に対しては、マクロ経済的にはウクライナ情勢の影響は欧州経済には強く出てくるが、米国経済には距離感があると語った。ウクライナ問題は政治的には重要だが、経済的には金利の方が重要と説く。ウクライナ情勢が緊迫化しても利上げは強行する姿勢と市場は受け止めた。
米国の高圧経済にもはや緩和は不要で、量的緩和は縮小しているといってもいまだに継続していることに苛立ちさえあらわにする。
対照的な意見なのが、金融引き締めに慎重な「ハト派」であるサンフランシスコ連銀のデイリー総裁だ。先週末の討論番組で「もはや金融緩和的な要素は取り除くべきで、サプライズ要因がなければ3月に利上げとなろう」としつつも「その後の利上げは会合ごとに状況を点検しつつ慎重に決めていくべきだ」と述べた。デイリー氏は今年のFOMCでは投票権を持っていない。
筆者が聞いてみたいのはニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁の見解だ。常任で投票権を持つ同連銀が発表した月次の消費者調査によれば、1年後の期待インフレ率が6.0%だった昨年12月から1月には5.8%に低下している。低下は20年10月以来という。食料品、ガス、家賃、医療費などの価格上昇が鈍化するとみられている。それでも、新型コロナウイルスの感染拡大前よりは高い。ウィリアムズ氏はハト派なので、ブラード氏の見解とはかなりの温度差がありそうだ。
同じくハト派の代表であるブレイナード副議長候補は、米議会が人事を未承認のため公的な発言は控えているようだ。議会公聴会では、指名したバイデン米大統領を意識してか「インフレに断固対応する」と金融引き締めに積極的である「タカ派」的な物言いだった。筋金入りのハト派とさえいわれていたブレイナード氏の本気度が問われそうだ。
議論が進む米連邦準備理事会(FRB)による資産圧縮(QT)については、償還分を再投資せず自然減に任せる「消極的圧縮派」と、償還前に保有している債券を売却する「積極的圧縮派」に分かれる。圧縮規模は「22年に5000億ドル、23年に1兆ドル」などの予測が広がるが、現時点では白紙だ。圧縮開始の時期も年央から年後半まで意見は割れる。市場が最も嫌うシナリオは利上げとQTの同時進行だ。この合わせ技は投資家心理を萎縮させる。
長期債の圧縮を優先すれば米10年債利回りが上昇するので、長短金利差の縮小に歯止めがかかり、景況悪化の兆しとされる利回り曲線(イールドカーブ)の平たん化を是正する効果への期待もある。
メディアで積極的に発言しているFOMC参加者は、おしなべてタカ派だ。カンザスシティー連銀のジョージ総裁とアトランタ連銀のボスティック総裁の2人が特に目立つ。これに対しハト派はおおむね沈黙を保つ。発言しても、内容は過激ではないためニュースの見出しになりにくい。実情は16日発表の1月のFOMC議事要旨で明らかになる可能性がある。「幾人かの参加者は各会合ごとに慎重に決断すべきだと述べた」といったような記述があれば、ハト派も隠然たる勢力があることが検証できよう。
昨年12月会合の議事要旨では、想定以上のタカ派姿勢が確認された。これがサプライズとなって発表翌日の日経平均株価が急落したのは記憶に新しい。それゆえ、議事要旨の発表は今週のメインイベントの一つとみられている。

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